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587.会話 蜘蛛の糸の話

本日もこんばんは。

蜘蛛の糸に引っかかった時、とても悲しい気持ちになります。悲しいです。

「……うわっ、蜘蛛の糸が顔に当たりました。山の中だから仕方ないですね」

「廃墟なんかも多いですよねぇ」

「……あれ、糸がないです。気のせいだったかな」

「ところで勇者さん、こんなお話をご存知ですか?」

「あんまり聞きたくないです。なぜなら魔王さんの顔が生き生きとしているから」

「何もないのに蜘蛛の糸に引っかかったような感触……。それは幽霊と関係している」

「……………………」

「実は、幽霊の髪なのだー!」

「おりゃあ」

「ぐはっ! み、みぞおちに一発……」

「心霊系だと思い、準備しておきました」

「さすが勇者さん。察する能力がお高い」

「蜘蛛の糸は細いんです。巣に突っ込んだのならまだしも、漂っていた糸なら感触だけというのもあり得るはずです。払ってしまえば、数本程度では気づけませんよ」

「勇者さんが冷静に分析している!」

「今までどれだけ蜘蛛の糸に絡まったり触ったりしたと思っているのですか」

「存じ上げませんが……」

「魔王さんと出会うまで、蜘蛛の糸が張っていない場所にいたことなどない」

「自信満々に言わないでほしいです。心が苦しいので」

「ワケあって動けなかった時なんて、自分の身体に蜘蛛の巣ができましたよ」

「それ以上はやめてください。ぼくが死にます」

「さすがに『なにしとんじゃこら!』と言ったり言わなかったりしました」

「どっちなんですか」

「言ってないです」

「言ってください」

「そういうわけで、蜘蛛の糸の感触は蜘蛛の糸。以上です」

「勇者さんがおばけ系にこわがらない……? 妙だな」

「人間の髪の毛の感触はよく知っていますから」

「というと?」

「自分」

「ああー、それもそうでした」

「蜘蛛の糸と髪の毛の違いなど簡単です。ふふん、魔王さんに騙されませんよ」

「喜びたいところなのに、判断材料の経験がしんどすぎる件」

「たまには役に立つときもあるのですね」

「ぼくとしては、もう蜘蛛の糸でも髪の毛でもどっちでもいいんですけど」

「よくないですよ」

「勇者さんに幸がいっぱいきてほしい」

「しょんもりしちゃった」

「魔王の糸を張ってプレゼントを引っかけましょう」

「魔王の糸」

「エサは金貨です」

「成金の釣り?」

「こうして作られたのが有名なおそうめんです」

「『糸』がついていればいいってもんじゃないですよ」

「勇者さんのお昼ごはんにしましょう」

「三神でお願いします」

「次にかかったのは……、なんですかこれ」

「白い布のようですね。いつの間に編んだのですか」

「違いますよ。ぼくではありません」

「でも、まだきれいですよ。山の中にあったとは思えません」

「旅人の落とし物か、忘れ物でしょうか。目立つところに置いておきましょう」

「木に引っかけるのはどうでしょう」

「いいですね。すぐに見つけられるように、目線の高さにしましょうか」

「細くて白い糸を使っていて、とてもきれいな布ですね」

「ぼくの髪とどっちがきれいですか?」

「五分五分です」

「なんてこったい」

「入り組んだ場所より、山道沿いがいいですよね」

「そうですね。ここを歩く人全員が見るようにしましょう」

「私が蜘蛛の糸に引っかかった場所はいかがですか。みんな通りますよ」

「名案です」

「あっ、魔王さん、布が木の枝に引っかかって……」

「あわわわわわっ、解けちゃっています」

「どうするんですか?」

「申し訳ないですが、残っている部分で許してもらいましょう。解けた糸は切らないよう、木に巻いておきましょうね。布の部分は垂らして……っと」

「糸が髪の毛みたいで、布は服みたいで……。これ、なんだか……」

「糸をぐるぐるに巻きつけましたし、風に飛ばされることはないでしょう。おや、なにゆえ離れて見ているのです?」

「次にここを通るひと、かわいそうだなぁと」

お読みいただきありがとうございました。

そうめんやっぱり。


勇者「こうして新たなホラー映画が生まれるのですね」

魔王「何の話ですか?」

勇者「ネタのヒントはあらゆるところに散らばっているということです」

魔王「いまいちよくわかりません。あと、なんで早足なんですか?」

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