586.会話 人生ゲームの話
本日もこんばんは。
人生ゲームでまともな人生を歩んだことがないみなさまのためのSS。
「今日は勇者さんと人生ゲームをしようと思います」
「己の命を懸ける遊びですか。物騒なゲームがあるものですね」
「また勘違いをしていますね。人生の様々なイベントを経て、お金持ちを目指すものです。ゴール時点で一番お金を持っていたひとが勝者ですよ」
「すでにお金持ちの魔王さんはどうなるんですか?」
「もちろん、一文無しからスタートです」
「少しだけやる気が出ました。それでは、始めましょう」
「こちらのサイコロを振り、出たマスを動くのですよ」
「六が出ました。止まったマスは『病院で取り違えられる』です」
「波乱の予感。ぼくは一が出ました。マスは『一回休み』……。初っ端から!」
「次は三ですね。『財布を拾って金貨を得る』。次は『魔物と遭遇』」
「比較的、安全なマスに止まっているようですね。よおし、やっとぼくの番です。そおい! 六が出ましたよ! なになに……、『小学校に入学。お祝いで金貨十枚』です!」
「魔王さんが小学校……? 妙だな」
「あくまでゲームですからね」
「私は『人助けをして謝礼に金貨三枚を得る』だそうです」
「この勇者さんは謝礼がもらえるタイプのようですね」
「ゲームの中でしか、私は勇者として存在できないのでしょうか」
「悲しまないでください。ぼくが金貨五枚をあげますから」
「いりませんけど」
「いえ、『石に躓いて転ぶ。隣の人に金貨五枚を渡す』というマスです」
「さぞかし盛大に転んだのでしょうね」
「勇者さんは『国の救世主となって国王から金貨百枚』ですって! すごいです!」
「現実を考えると虚しいだけですよ」
「ぼくは『無実の罪を着せられて追放される。金貨一枚を捨てる』ですか」
「その見た目で濡れ衣はよっぽどですよ」
「悲しい気持ち」
「私は『生き別れのきょうだいと再会。金貨十枚』だそうです」
「取り違え事件のフラグ回収ですか?」
「知らぬ間にきょうだいがいたことに恐怖を覚えています」
「人生ゲームってそういうものですから。次は『頭を打って昏睡。一回休み』。また⁉」
「休む理由がついているだけいいですね。私も協力しますよ」
「昏倒させなくていいですので」
「私は『武器が壊れて金貨三枚失う』と『体調不良で五マス戻る』ですか」
「ありゃ、残念なマスに止まってしまいましたね」
「やる気が失せました」
「もう少しでゴールですから、がんばってください」
「魔王さんのサイコロから六だけ奪い取ってやりたいです」
「独特な嫌がらせじゃないですか」
「何が出ました?」
「一です」
「嫌がらせせずともサイコロ運が悪い」
「マスは『運命の人と出会う。金貨三百枚』です!」
「神様のことですかね」
「紛れもなく勇者さんのことです。絶対に。確実に。切実に。心の底から勇者さん」
「一瞬でお金持ちですね。羨ましい」
「勇者さんも金貨百枚くらいありましたよね」
「いいえ、ないです」
「あれっ? なぜ……って、このマスは……!」
「『全財産を失って振り出しに戻る』です」
「これはまた、とんでもないマスに止まりましたね」
「私の人生のことかと思いました」
「遠い目をしている」
「ゲームですら、私はこうなのですよ」
「ま、まあまあ、巻き返しはできますから」
「がんばりたくないです」
「怠惰になっちゃった。あ、ぼくのマスも『めんどくさくて動けない。二回休み』」
「私のぱぅわぁーが影響したようですね」
「想像以上に強力なんですよね」
「テキトーにサイコロを振って終わらせましょう。それそれそれ……」
「おや、イベントマスですって。『魔王と勝負して勝ったらゴール。負けたら振り出し』」
「なるほど。わかりやすくていいですね」
「付属で魔王人形がついていました。サイコロを振って六が出たら勝ち――」
「魔王さんを倒せばいいのですね」
「いえ、あの、ゲームの魔王です。サイコロで倒すのですよ」
「神様はサイコロを振らないといいますし」
「勇者さんは勇者じゃないですか」
「私の場合はあれです」
「どれです?」
「サイコロを振るのがめんどくさい」
お読みいただきありがとうございました。
この作品の中にまともな人生を歩んでいるひとはいません。
勇者「突然神様からのお告げがあり、勇者になる」
魔王「そんなマスありましたっけ?」
勇者「振り出しに戻る」
魔王「あ、自分の話だ、これ」




