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584.会話 省エネ勇者の話

本日もこんばんは。

内容理解に使うエネルギーがほぼゼロの作品はこちらです。

「今日は一段とぐーたら……、いや、だいじょうぶですか?」

「省エネです」

「いつもより使うエネルギーを少なめにしているということですか?」

「はい」

「それにしては、人間とは思えない状態ですね」

「できれば呼吸も止めたかったのですが、普通に苦しかったです」

「生きていますからね」

「人間、がんばれば異形になれると知りました」

「ぼくもびっくりです。怠惰を極めると人外に成れるのですね」

「何もしたくない」

「何もしていないじゃないですか」

「会話に伴う思考は脳の働きによるものです」

「ちゃんと考えて話しているようには見えませんけど」

「失礼すぎる」

「すみません、つい本音が」

「そんな風に思われていたなんて心外です。ただの事実じゃないですか」

「事実なんですね」

「何もせず生きていけたらいいなぁ」

「ですが、ちょっとさみしいと思います。せっかく生きているのです。好きなことをして過ごしてみるのもいいと思いますよ」

「一応、好きなことをしている状態です」

「人の姿を忘れたことが?」

「実際はいつもの姿ですよ。私から滲み出る怠惰オーラでそう見えているだけです」

「そんな効果があるのですか」

「脳を騙し、視界を操る強力な技です」

「いつの間に技を会得したのですか」

「ふふふ……、よくぞ訊いてくれました。三分前です」

「思ったより直近」

「えいやーってやったらできました」

「勇者さんのたまにゼロになる語彙力、好きですよ」

「私が省エネで生きることで、他の人間にエネルギーを多く提供しているのです」

「生命エネルギーは分け与えられません」

「勇者たるもの、命のひとつやふたつ、人々にあげるものですよ」

「知っていますか、勇者さん。人間の命はひとつなんですよ」

「そっ、そうなんですか……⁉」

「初めて命を知った人?」

「驚くリアクションでエネルギーを非常に消費してしまいました」

「あんな一瞬で……」

「世界に渡すべきエネルギーを使ってしまったこと、申し訳なく思います」

「欠片も影響はないと思うので、だいじょうぶですよ」

「あの驚きで、国が五つほど消え、二百万人の人々が苦しむことになったとか」

「インフルエンサー顔負けの影響力じゃないですか」

「お詫びに、最新の魔王討伐方法の解説でもしましょうか」

「そういえば、魔界ではマオチューブが人気ですよ」

「なんですか、それ」

「人間界の隠れた名店とか、ペットの紹介とか、変化魔法のコツとか、いろんな動画が投稿されているサイトのことです。ぼくもよく観ていますよ」

「魔界って割と自由気ままですよね」

「その中に、勇者と出会った時の対処法などを解説する動画があるのですが」

「ピンポイント私」

「見つけ次第、ぼくが通報しています」

「まさか、魔王がやっているとは思わないでしょうね」

「絶対に見逃さない気持ちで動画を観ています」

「エネルギーの消費が大変そうです」

「いつも息が切れていますよ」

「もっと肩の力を抜いて、のんびりぐーたら生きましょう」

「勇者さんは生命力自体が抜けすぎです」

「魔王さんと私でバランスを保っているのですよ」

「天秤は勇者さんに傾いていると思います」

「魔なるものと同じように、通報したって次から次へと湧いてくるんでしょう?」

「うっ……」

「放っておけばいいんですよ」

「ですが……」

「ターゲットが勇者なら、動画を実践する機会はそう多くないでしょうし」

「動画を観て、挑戦しようと思う輩が増えたら困るじゃないですか」

「その時はその時です。魔王さん、お願いしますね」

「自分で倒す気はないのですね」

「剣を持つのもめんどうです。戦うのは疲れます」

「では、転売目的で人間界の限定商品を買い漁る動画もそのままでいいですか」

「剣を持て、立ち上がれ人間たち」

お読みいただきありがとうございました。

『魔王っぽい勇者と勇者っぽい魔王』はエネルギー消費が少ないエコ作品。つまり環境に優しいということです。


魔王「珍しく勇者さんがやる気ですね」

勇者「人には戦うべき時があるのです」

魔王「ですが、すぐ疲れちゃうんですよね?」

勇者「うん……、立ち上がりたくない……」

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