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581.会話 朝飯前の話

本日もこんばんは。

この作品はパンが焼けるまでの時間にちょうどいい長さです。

「さすが勇者さん。あっという間に魔物を倒してしまいましたね!」

「この程度は朝飯前です。ここで魔王さんに質問があります」

「急ですね。どうぞ」

「なぜ朝食だけなのでしょう。夕飯前でもいいと思うのですが」

「聞いた話では、食事が一日二回の人たちにとって、朝食前は力が入らない時間です。それゆえ、ご飯を食べる前の状態でもできる簡単な仕事という意味があるそうですよ」

「異議あり」

「どうぞどうぞ」

「お昼ごはんの前も、夕ごはんの前も、お腹が空いているので力が出ません」

「それもそうですねぇ」

「朝ごはんだけ特別扱いはよくありません。朝飯前ではなく『飯前』にするべきです」

「言いたいことはよくわかりますよ」

「ちなみに、私はいつでも力が入りません」

「きみは意図的に入れていないだけですよね」

「ご飯を食べる前は空腹で動けませんし、食べた後はお腹いっぱいで動きたくないです」

「救いようがない」

「私の活動時間は食間だけです」

「短いですね」

「動くだけましですよ」

「では、先ほどの魔物退治は食間だったのですね」

「そして、今は食前です」

「まだ夕ごはんには時間がありますよ」

「えーっと、なんだっけ、あふたぬー……です」

「アフタヌーンティーですね。十五時頃に食べる軽食のことです」

「それです。というわけで、もう活動限界です」

「道端に寝転がると危ないですよ。はい、チョコレートをどうぞ」

「もぐもぐ……」

「餌付けの気分です」

「もうちょっと……」

「せめて起き上がってほしいのですが」

「魔族が人間を飼っているように見えますかね」

「ぼくにそんな趣味はありません」

「でも、毎日ご飯くれる」

「食事は大切ですからね。ひとりで準備できない人はできるひとの力を借りるでしょう」

「毎日毎日、よくできますね」

「ご飯の支度など、ぼくにとっては朝飯前ですから」

「たしかに、朝ごはんの前ですね」

「朝ごはんを作るわけですから、時系列的にはそうなります」

「私としては、朝飯前の仕事の方が重労働なのですが」

「はて、なんのことですか?」

「とぼけないでください。あなたを起こすのは大変なんですよ」

「いつもお世話になっております」

「寝ぼけまなこのまま火を使っている時は少し心配です」

「お優しい勇者さん。ぼくは魔王ですから平気ですよ」

「いえ、家屋の方」

「じゅうぶんに気をつけます」

「今まで言いたくても言えなかったことがあるんです」

「よろしければ教えてください」

「目をこすりながらフランベするのはやめてほしいです」

「その心は?」

「普通にこわい」

「確実に目を覚ましてから行うようにします」

「あなたにとっては簡単なことかもしれませんが、絵面が火事なんです」

「あ、だからフランベをしている時にぼくのことを見つめていたのですか?」

「はい。いつでも消化できるように」

「てっきり、『フランベしている魔王さんかっこいい……』だと思っていました」

「認識の相違があったようですね」

「勇者さんからの熱い視線を感じるのがうれしくて、かっこつけでやっていたのですが」

「えっと……、ごめんなさい」

「いえ……、ぼくもすみません」

「ていうか、朝ごはんにフランベが必要な料理を出さなくても」

「一日のやる気を燃え上がらせようと思いまして」

「物理的に燃えているのですよ」

「眠気も覚める気がするのです」

「目の前で火が燃えている状況で寝ていたら病気か魔法ですよ」

「勇者さんだって焚き火の前で寝ているじゃないですか」

「一緒にしないでください」

「わかりました。……あの、そろそろほんとうに起き上がってくださいな」

「チョコレートのエネルギーも会話で消費してしまいました」

「勇者さんはいつでもご飯前みたいな感じですね」

お読みいただきありがとうございました。

生きているだけでエネルギーを消費する人間に不満な勇者さん。


勇者「眠くなってきちゃった」

魔王「ご飯はいいのですか?」

勇者「たべたいけどねむい……」

魔王「生きるのが大変そうですねぇ」

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