58.会話 時間の話
本日もこんばんは。
ごろごろしながらお読みください。
「勇者さん、あんまりごろごろしていると一日なにもせずに終わってしまいますよ?」
「ごろごろする、をしているじゃないですか」
「へりくつですねぇ。勇者さんがごろごろし始めてはや三時間。もう夕方ですよ」
「一日が二十四時間しかないのが悪いんです。魔王さんの力で五十時間にしていただけませんか」
「無茶言わないでください。ぼくのことなんだと思ってるんです」
「魔王なんですから、白のものも黒にできるでしょう」
「白は白ですよ?」
「今日から一日を五十時間にする! と御触書を出してくれればいいのです」
「横暴ですねぇ。はやく時間が経ってほしい時は一日十時間になればいいと言い、のんびりしたい時は一日五十時間になればいいと言う……。わがままですよ、勇者さん」
「五十時間あれば、朝起こされることもなくなりますよ」
「ハッ……!」
「ゆーっくり眠り、二度寝も三度寝も思うがままですよ」
「ごくり……!」
「そうして寝ている間に私はひとりで旅に出ますね」
「ちょっと! 寝坊したこどもを置いて旅行に行く親ですか。ぼく、泣きますよ」
「泣けばいいんですよ。私が思うに、睡眠時間は二十四時間の中に入れるべきではないんです。眠る、食べるという行為は生命活動に必要不可欠でしょう? 他にもやることがあるのに、一日の三分の一は生命維持に使うなんておかしいと思いませんか?」
「魔族の中には食べなくても生きられるものや、睡眠を必要としないものもいますけど」
「人間の話をしているんですよ。空気読めやこら」
「お口の悪いことですね。ぼくは眠るのも食べるのも好きですし、勇者さんと旅をすることも好きなので、一日中好きなことをしているので楽しいですよ」
「お気楽魔王め……。私はエブリデイ社畜生活だというのに」
「いま、ごろごろしているのは幻覚ですか」
「魔王さんが悪事を働かないよう監視しているんです。仕事中です」
「ぼくのこと見ていませんよね? お布団かぶってますよね?」
「あれですよ、あれ。気配とか雰囲気とか。勇者センサー的なあれ」
「テキトーですねぇ。さて、勇者さんは動きませんし、ぼくは日記でも書くとしましょうか」
「書くなら私の勇姿を記録してくださいね」
「勇者さんは今日もお布団と一緒にごろごろしています、と」
「真実を書かないでください」
「嘘を書いてどうするんですか」
「いつかその日記を読んだ人に『勇者が仕事してない』と思われるじゃないですか」
「ほんとうのことですよね」
「今日から一日は五十時間になり、人々は二度寝も思うがままになった――とか書いておけば、読んだ人が世界を改変してくれるかもしれませんよ?」
「都合よくいきませんって。時間は有限だからこそ人々は毎日を大切に生きているんですよ」
「どの口が」
「ぼく以外のすべては有限ですからね。日記にも書いてありますよ。二度とこない今日の話がたくさん」
「宿でごろごろするだけの日は何を書くんですか。今日みたいな」
「勇者さんとお話したことや食べたもの、天気やぼくの思った事など。書くことはたくさんありますよ」
「勝手にでっち上げているんじゃないでしょうね」
「し、失礼ですね。ぼくは嘘をつくのが苦手なんです」
「こうして意味のない会話をしている時も時間は過ぎていきますが、魔王さんはどう思います?」
「どう、とは?」
「くだらないと思って時間を進めたいと思いませんか? はやくご飯の時間にならないかなとか」
「くだらないと思ったことはありませんし、勇者さんはお腹がすいただけですよね」
「夕飯の時間までまだ一時間もある……。なんで一日は二十四時間もあるんだ……」
「五十時間じゃなくてよかったですね」
「魔王さんの力で時間を進めてくださいよ。魔王でしょう」
「増やせだの減らせだの、注文の多い勇者さんですねぇ。無理ですよ」
「おやつも切らしているし、夕飯まで持ちそうにない……。こうなったら私の勇者ぱぅわぁーを使うしかないようですね」
「まさか、神様のギフトが?」
「ふふふ……。これをご覧ください、魔王さん」
「じ、時間が一時間進んでいる⁉ ほんとうにそんな力があったんですか?」
「夕食の時間です。行きましょう」
「待ってください、勇者さん。こっちの時計は一時間前ですよ」
「……時計もう一個あったのか」
「勇者さん、この時計……。日付が明日になっていますよ」
「げっ。……回し過ぎた」
「やっぱり手動で動かしましたね?」
お読みいただきありがとうございました。
夜間帯だけ三十時間くらいほしい天目です。
勇者「時間に縛られないことも旅人の利点ですよね」
魔王「だからって一日中ごろごろしているのはよくありませんよ」
勇者「ふっふっふ……。私を縛るものは何もない……イタッ」
魔王「転がりすぎて壁にぶつかるとは……。物理的に制限されましたね」




