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579.会話 かちかち山の話

本日もこんばんは。

今回の犠牲物語はこちら。

「あっ、それはぼくが『少々残酷すぎやしないか』と隠しておいた絵本!」

「この世の方が残酷ですよ」

「いやん、真理……」

「とはいえ、今まで読んできた昔話の中では残酷さが際立っていますね」

「たぬきが行った残虐非道な行動を考えると、なんとも言えませんけどね……」

「私は好きですよ」

「お、おお、そうですか。いいと思います」

「うさぎさんがとっても強い」

「あ、よかった。あんまり深く考えていないお顔をしていらっしゃる」

「被害を受けた人間に代わり、うさぎがたぬきに罰を与えるお話ですよね」

「はい。例のごとく様々なバージョンがありますが、よく知られているのは、たぬきが最後に死んでしまうお話ですね。泥船とともに沈んでしまう結末です」

「私も泳げないので溺死まっしぐらです」

「そもそも、泥船に乗ろうと思いますか?」

「強度が心配ですね」

「心配するところは、そこではありませんよ」

「木の船でもちょっと」

「水がこわい時点で、何に乗ってもこわいのでしょうね」

「魔王さん船でも沈みそうです」

「挑戦したことがないですね。一応、筋力トレーニングをしておきます」

「嘘をついて縄を解いてもらおうとするのはまだしも、その後におばあさんを殺してしまうのはどうかと思います。不要な行動ではありませんか?」

「おばあさんで汁を作り、おじいさんに食べさせたことで、読者に同情させる余地を与えない作戦かもしれません。勇者さんはたぬきがかわいそうだと思いましたか?」

「悪いことをしたのなら、相応の罰は受けるべきだと思いますが、結末は……、ううむ」

「構いませんよ。それもひとつの感想です。読んで何を思うかは人それぞれ。おばあさんが死なないものや、たぬきが許される展開のものもあるのが証拠でしょう」

「実は、おばあさんだと思っていた人はおばあさんじゃなかったというのは?」

「ちょっと存じ上げませんね」

「おじいさんを化けて騙したたぬきも、実は化かされていたのです」

「えっと、続けてください」

「この話には黒幕がいるのです」

「黒幕?」

「いたずらにしては度が過ぎているたぬきを嫌うたぬきがいたのですよ」

「たぬきコミュニティ」

「このたぬきは、おじいさんとおばあさん、うさぎと協力して懲らしめようとします」

「四面楚歌」

「事前に避難させておいたおばあさんに化け、たぬきと相対するたぬき」

「若干ややこしいですね」

「必要以上の残虐行為を確認し、チーム天誅は作戦を開始します」

「チーム天誅」

「少々厳しめのお仕置きをし、最後は泥船に乗せ、命の恐怖を味わわせるのです」

「お灸を据えたのですね」

「そして、命乞いをしたところで回収します」

「おや、たぬきが許されるバージョンですか」

「最後にうさぎはこう言います。『この音をよく覚えておけ。かちかち、かちかち……。お前の命を奪う音だ。これから先、お前をずっと追う音だ。かちかち、かちかち……』」

「あれ、ホラー映画でした?」

「こうして、たぬきは『かちかち』という音に縛られながら、一生を過ごすのでした」

「ほんとうはこわい昔話ではなく、大体どのバージョンもこわい昔話ですね」

「こどもは泣いてしまうのでは?」

「物事の善悪を理解してきた頃に読むのでしょうね」

「親はかちかち山を使い、悪いことをしたら泥船に乗せて沈めるぞ、と教えるのですね」

「それは殺人かも」

「ちゃんと糸を括り付けてあります」

「じ、実際にはやっちゃだめですよ?」

「やりませんよ。私は泥船に乗せられる側ですから」

「なんてこと言うんですか」

「いつか私も沈められるんだ……」

「そんなことしませんよ!」

「水深三センチの湖に……」

「あっさ」

「泥まみれになってお風呂が大変なんだ……」

「どろんこ遊び中のお子さんを眺める親御さんの顔、この世の終わりみたいですもんね」

「泥って水分が含まれているので、意外と体が冷えますよね」

「どろんこ遊びの後はすぐにお風呂に入らないとです」

「一応、近くに火も起こしておきましょう。火打石があれば簡単です」

「いい音ですねぇ。かちかち、かちかち」

「この音をよく覚えておけ」

「オチがホラー映画なんですよね」

お読みいただきありがとうございました。

昔話や童話はホラーっぽいものが多いような気がします。


勇者「私たちもその一翼を担いませんか?」

魔王「勇者は善、魔王は悪ですから、適任かもしれないですね」

勇者「では、まず私が人間たちを脅かします」

魔王「うん、逆です」

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