577.会話 目標を立てる話
本日もこんばんは。
みなさまの今年の目標は何ですか?
天目は『2那由他PV』です。よろしくお願いします。
「気分転換も兼ねて、今後達成したいと思うことを話し合ってみませんか?」
「達成したいと思うことなどありません」
「世界中のうさぎさんに会いたいとか」
「それは願望であって、目標とは異なります」
「願望はあるのですね」
「い、今のは言葉の綾です。目標というのは、己の行動や思考、努力次第で実現可能な事柄のことだと思うのです。例えば、一日一魔物退治とか」
「勇者としてはもっと倒すべきなのですけれど」
「ハードルを低くしておくことで、達成感を簡単に味わおうという魂胆です」
「魂胆って言っちゃった」
「それに、達成したら次、と考えれば、気持ちにゆとりができませんか?」
「一理あります。少しずつハードルを上げることは達成への近道かもしれませんね」
「そういうわけで、私の目標は『食べてすぐ寝ない』」
「勇者の使命にかすりもしていないじゃないですか」
「誰がいつ、勇者の目標を立てると言いましたか」
「この流れはそうだと思ったのですが」
「では、魔王さんの目標も教えてください」
「『勇者さんに怒られる前に起きる』です」
「魔王の目標を立てていない時点でおあいこですよ」
「勇者さんと違って、魔王の目標は悪事になるからです」
「いいじゃないですか、悪事」
「な、なんてこと言うんですか」
「家具の配置を少しだけずらしておいたり」
「気づかなくてぶつかるやつ」
「シャンプーとコンディショナーを逆に入れたり」
「プッシュしてから絶望するやつ」
「お財布の銀貨をすべて銅貨に変えて重くしておいたり」
「金額は変わらないものの、お支払いがめんどうになるやつ」
「畳んだばかりのタオルを一番下から使ったり」
「タオルが崩れてぐちゃぐちゃになるやつ」
「ふふふ……、どうですか? そそられるでしょう?」
「悪事のレベルがかわいすぎるのですが」
「参考にしてくださっても構いませんよ」
「得意げなところがまた、平和を感じて笑顔になっちゃうぼく」
「やっぱり、魔王さんより私の方が魔王に向いていますね」
「こんな魔王だったら、世界はずっと幸せだったでしょうねぇ……」
「魔王さんの目標は『一日一悪事』でいいですね」
「先ほどのレベルであれば、許可してもだいじょうぶそうです」
「悪事に迷ったら言ってください。知恵を授けますよ」
「では、お礼にぼくも勇者さんにお力添えをいたしましょう。あちらに魔物がいますよ」
「教えてくれなくてもいいのに」
「教えないとスルーしようとするじゃないですか」
「低級ですし、別にいいかなって……」
「低級が成長すれば強くなると知っているはずです。さあ、がんばって」
「おりゃー………………」
「びっくりするほどやる気がないですが、ちゃんと倒せたようですね」
「倒したぞー…………」
「生気を感じない」
「疲れました…………」
「大剣をぶん投げただけですけどね。お疲れさまでした。これで目標達成です」
「案外簡単ですね」
「ハードルを低く設定して正解でしたね」
「よおし、次は『一日一絶級退治』にしましょう」
「ハードルが吹き飛んでいきましたよ」
「何度も魔物と戦っているとはいえ、絶級と戦えば命はないでしょう」
「ですから、次はもう少し強い程度の魔物を――」
「魔王さん、あそこに魔物がいます」
「あれは……、上級です。気をつけてください、勇者さん」
「………………」
「勇者さん?」
「やる気なくなっちゃった」
「勇者さん……」
「魔王さん、お願いします」
「だ、だめですよ。魔物退治は勇者さんのお仕事。強い相手でも戦わないと、いざという時に経験が足りなくなってしまいます。結果として、きみが危険な目に遭うのですよ」
「でも、目標は達成してしまったので、これ以上の退治は目標外です」
「いいではありませんか。目標はどんどん更新するべきです」
「あ、間違えました。私の目標は『一日一魔物“限定”退治』でした」
「それで誤魔化せると思っているのですか? 仕方ないですね、今回だけですよ」
「魔王さんは『勇者を甘やかしすぎない』を目標にした方がいいと思います」
お読みいただきありがとうございました。
目標は適度かつ適切に立てましょう。
魔王「勇者さん、倒してきましたよ」
勇者「ありがとうございます。今日も通常通り間違っていますね」
魔王「間違えないことを目標にしましょうか」
勇者「たぶん無理だと思いますよ」




