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573.会話 シャンパンファイトの話

本日もこんばんは。

シャンパンファイトをどこで知ったかで、その人の人生がわかったりわからなかったりするSSです。

「どことなくうきうきしている勇者さんを前に、絶対何かを企んでいることは承知で、かわいいなと思わずにはいられないぼくは静かにカメラを構えたのだった……」

「魔王さん、シャンパンファイトしましょう」

「おやおや、どこで覚えたのですか?」

「映画で観ました」

「何の映画を観たのやら。絶対、また変な映画なのでしょう」

「どうして言い切れるのですか?」

「シャンパンファイトでトマトジュースは使わないからです」

「えー、そうなんですか?」

「名前の通り、シャンパンを使うのです。他にも、ビールやワインの場合もありますが」

「でもこれ、ちゃんと『シャンパン』と書いてありますよ」

「『シャンパン』という名前のトマトジュースのようですね」

「ややこしいことを」

「ほんとですよ。誰ですか作ったのは」

「製造者の名前は書いていませんね」

「怪し過ぎる。没収です」

「トマトジュースに罪はありませんよ」

「もちろんです。なので、ぼくが飲みます」

「ちゃんと振ってくださいね」

「下に溜まっているかもしれませんからね。えいやっ、えいやっ」

「…………」

「なんで離れるんですか?」

「気にしないでください」

「気になりますよ。さて、開栓っと――ひょうああぁああぁぁ!」

「そのトマトジュース、炭酸入りなんですって」

「開ける前に言ってくださいよぉ……」

「でも、ラベルに『振ってお飲みください』と書いてあったので」

「悪意を感じるラベルですね」

「お味はどうですか?」

「おいしいトマトジュースです。炭酸入りに脳が混乱していますけど」

「絵面が大変なことになっていますが、年齢制限のタグは必要ですか?」

「下の方に『注:トマトジュースです』と書いておいてください」

「わかりました。よいしょっと」

「これで安心ですね」

「見た目はスプラッター映画なんですけどね」

「勇者さん、これ果実入りですよ。豪華ですねぇ」

「別の意味に聞こえる」

「そういえば、シャンパンファイトは本来、スポーツの表彰式などで喜びを表すために行うものだそうですが、勇者さんは何かいいことがあったのですか?」

「割り箸がきれいに割れました」

「わあ~、平和」

「見てください、この完璧な箸を。一ミリの狂いもないうつくしい直線です」

「小さな幸せ」

「でも、割り箸を使うところがありません。割っただけ」

「悲しそう」

「食べるものがない」

「ぼくに降りかかったトマト果実は食べないようにお願いします」

「不気味なので結構です」

「頭から滴ってくるトマトジュースが非常にジューシーですよ」

「そろそろ拭いてください。大人の方々から怒られる予感がします」

「魔王たるぼくを叱るというのですか?」

「年齢制限がかかったら魔王さんにモザイク」

「すぐに拭きます。ふきふきふきふき、どうですか?」

「驚きの白さです。洗濯用洗剤のCMに出られますよ」

「髪をなびかせて手を差し伸べましょう」

「私はトマトジュース『シャンパン』を吹きかける役をやります」

「服を汚さないと洗浄効果をお見せできませんもんね」

「すばらしい洗浄力に開発者たちが歓喜し、シャンパンを振ったことがシャンパンファイトの始まりと言われています」

「なるほど~。なるほどじゃない」

「しかし、洗浄力を信頼することができない人が、トマトジュース『シャンパン』ではなく、色のないシャンパンを使ったとされています」

「シミはできると思います」

「そこに乱入する開発者集団。己の技術力を信じ、ワインを全力で振った――」

「そこはトマトジュースじゃないんですか」

「以上、シャンパンファイト誕生物語でした」

「もう全部おかしいのですが、これが勇者さんというものです」

「私もシャンパンファイトやりたいので、こちらを用意しました」

「瓶ですか。なんで構えているのですか?」

「ファイトするんですよ」

お読みいただきありがとうございました。

天目は某耐久レースで知りました。


勇者「ファイト(物理)しましょう」

魔王「いやな括弧!」

勇者「拳でもいいですよ」

魔王「いやぁぁぁぁぁ」

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