572.会話 大蛇の話
本日もこんばんは。
2025年もどうぞよろしくお願いします。
「……そろそろ逃げませんか?」
「だめです。いま動くと気づかれ、勇者さんなんて丸呑みされますよ」
「魔物なんでしょう。魔王さんが倒してくださいよ」
「今日は魔王ぱぅわぁーの調子が悪くて……」
「そんなことあるんですか?」
「実は意外とあったんですよ。ぼくの美少女すまいるで誤魔化してきましたけど」
「普段も割とへっぽこなので気づきませんでした」
「よかったです。よくないですけど」
「さて、ポンコツ魔王さんは放っておいて」
「ぼくを見てすらいない」
「あの大蛇をどうにかしないといけません」
「静かに待っていればどこかに行くと思いますよ」
「炭火焼き、刺身、鍋、炒め物……。どれがいいと思いますか?」
「倒す作戦の話じゃないんですね」
「私があんなの倒せると思いますか?」
「食べる前提でしゃべっているのは誰でしたっけ」
「魔王さんです」
「すごい。息をするよりも自然に嘘をついた」
「だって、魔物は毒だっていうから」
「そうですよ。しかも、あの大蛇は牙に猛毒があるはずです。毒の極み大蛇です」
「毒使い対決ですね」
「戦わない方がいいと思います。魔力からするに、あれは超級クラスですよ」
「めちゃくちゃ美味ってことですか」
「食から離れてください」
「五つ星グルメ」
「うなぎと間違えています?」
「魔王さんがおかしなことを言うから、大蛇が大きく地面を割りましたよ」
「とんでもない力です。勇者さんならぺきゃってされますよ」
「嫌な擬音」
「蛇の締め付ける力は凄まじいのです。人間なんて一瞬です」
「魔王さんは?」
「ぼくもぺきゃってされます」
「されるんだ。よわっちい」
「魔王を甘くみないでください」
「そのセリフって相手より自分が強い時に使うんじゃないんですか」
「人間に寄り添った結果です」
「弱くなっちゃだめだと思いますけど」
「弱さとは強さ……。そう、ぼくはある意味、最強なのですよ」
「そもそも、魔王ってそういう存在だと思ったのですが」
「ぼくは最強なので、超級大蛇の対処法もばっちりです」
「教えていただいても?」
「蛇は視力が弱いので、息をひそめて立ち去るのを待つのがベストかと」
「ただの知識」
「伊達に長生きしているわけではありませんよ」
「魔王さんを餌にしている間に私が逃げるというのは?」
「すばらしいですね。血も涙もない作戦とはこのことです」
「不老不死もたまには役に立つのですね」
「たまには……」
「でも、どこかに行く気配が全然ありません。どうするのですか」
「蛇は嗅覚で周囲を観察しますからね。ぼくたちの匂いを覚えたのでしょう」
「では、『餌どこかな』と探している最中だということですね」
「そうですね」
「やっぱり魔王さんを突き出そう」
「まあまあ、他にも対処法はあります。蛇は強い香りが苦手らしいですよ」
「魔王さんの血の匂いを撒き散らして逃げるのですね」
「いつの間にぼくは出血しているのでしょうか」
「遠慮しなくていいですよ」
「普通にいやなんですよ」
「他に強い香りなんてありますか?」
「血以外に思いつかない勇者さんがこわい。ハーブをご用意しました」
「いい香り」
「これを大蛇の近くにそそそそ……っと」
「効いていますか?」
「ガン無視ですね」
「だめじゃないですか」
「困りましたね。これでは大蛇に塞がれた道を通れません」
「草木に隠れてもう二時間です。疲れてきましたよ」
「休憩しましょうか。ハーブティーを淹れますよ」
「えっ、ここで?」
「はい、ここで」
お読みいただきありがとうございました。
今年もこんな感じで愉快な登場人物たちと進んでいきますので、お付き合いくださいませ。
勇者「蛇って食べられるのでしょうか」
魔王「よく聞くのは、鶏肉のような味だとか」
勇者「ははーん、閃いちゃった」
魔王「念のため言いますが、あれ魔物ですからね」




