57.会話 梅雨の話
本日もこんばんは。
六月が終わる日に梅雨の話を投稿する天目です。雨を思い出してお読みください。
「勇者さん、外に行きませんか?」
「いやです。雨の日に外に行く意味がわかりません。ただでさえ、最近雨が続いているんです。ぬかるんだ道なんて歩きたくありません」
「そりゃあ、梅雨ですからねぇ」
「なんですか、それ」
「雨の日が増える時期があるんですよ。多くは六月で、梅雨が明けると夏が来たーってなるんです」
「梅の雨ってなんですか。梅干しが降るなら共存できたのに」
「いくら柔らかい梅干しでも空から降ってきたら危険ですからね。白米を思い浮かべないでください」
「はあ……」
「ご機嫌ななめですね。雨、お嫌いですか?」
「嫌いで好きです」
「どっちですか」
「雨に当たらない場所にいる時の雨は好きです。それ以外は嫌いです」
「雨音はお好きっておっしゃっていましたよね。では、今の状況は好きなんですね」
「そうですね」
「ですが、お顔が不満そうですよ」
「私は部屋で雨音を聴きながらごろごろしたいのに、事あるごとに魔王さんが外に誘うからです。どうして雨が降っているのに外に出ようとするんですか」
「かたつむりを探しに行くんですよ」
「エスカルゴですか?」
「かたつむりです。食べないでください」
「探してどうするんです。食べるんですか?」
「食べませんって! 探すことに意味があるんですよ。見つけて、梅雨だなぁって思うんです」
「思ってもお腹はふくれません」
「では、紫陽花にしましょう。梅雨のお花ですよ」
「こんなノリの悪い勇者なんか放っておいて、おひとりで行って来たらどうです。このままでは魔王さんの気分も落ちますよ」
「ご自分で言いますか。ぼくは勇者さんと一緒にかたつむりも紫陽花も見つけたいんです。ひとりで行っては意味がありません」
「文句を言う人間が隣にいて楽しいですか」
「それも含めて勇者さんですから」
「……うーん、なんか負けた気分です。いいでしょう、少しだけですよ」
「ほんとですか? やったぁ! 実は、かわいいレインコートを見つけたんですよ。これを着てお出かけしましょう」
「傘じゃないんですね」
「レインコートならいつもと同じ距離でいられますから。では、れっつご~」
「だからなんで引っ張るんで――相変わらず力が強いなおい。……でも痛くない」
「数日ぶりの外ですね。うわあ、見てください勇者さん。とんでもなく大きな水たまりがありますよ。異世界への入り口のようです」
「わざわざ水たまりを突っ切らなくてもっ……。あああ……」
「だいじょうぶですよ。そのために長靴もご用意したでしょう?」
「私の知っている長靴じゃない……。ブーツと遜色ないですね。かわいいですこれ」
「そしてそして、レインコートは明るい空色です。青空が見えないぶん、ぼくたちが空になるんですよっ」
「楽しそうですね」
「とっても楽しいです! これもぼくの隣に勇者さんがいるからですねっ」
「手を引っ張られているので強制的ですけど」
「おっ、見てください、勇者さん。紫陽花はっけーんでーす!」
「聞いてないし……。へえ、これが紫陽花ですか。青色なんですね」
「紫色、白色、赤色もありますねぇ。雨に濡れた花びらがきれいです」
「なんとなくですが、雨が似合う花ですね」
「ぼくも同じこと思いました。だから梅雨に咲くのでしょうね」
「……雨の日に外出するのも悪くないかもですね」
「ん? なにか言いました?」
「いえ。ところで、かたつむりはどこです?」
「紫陽花の近くにいると思うんですけど……。葉っぱの裏とかどうですかね?」
「そういえば、私かたつむりを見たことありません。調理されたかたつむりとは違いますか?」
「それはエスカルゴですね」
「そうでしたそうでした。何が違うのかわかりませんけど。……ん? 魔王さん、これじゃないですか? エスカルゴ」
「かたつむりですね。そうです、これです。梅雨といえばかたつむりですよねぇ」
「ふーむ、なるほどこれがエスつむり」
「交ざってますよ」
「ふつうにおいしそうですね」
「絶対食べちゃだめですからね」
「えー。なんでですか。焼いたらなんだって食べられますよ」
「寄生虫がいますから」
「うげっ……」
「突然丸まってどうしたんですか?」
「身を守るために殻に籠ろうと……」
「勇者つむりですね」
「語呂が悪い」
お読みいただきありがとうございました。
某ファミレスのエスカルゴが好きです。
魔王「お布団に包まる勇者さんはまるでカタツムリのようですね」
勇者「このまま移動できたらよいのですが。誰か開発してくれないかな」
魔王「フード被ってローブ羽織っていたら似合たようなものでは?」
勇者「これだから魔王は……」
魔王「す、すみません? というか、今の魔王関係ありました?」




