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569.会話 肉まんの話

本日もこんばんは。

寒くなると肉まんが食べたいですが、寒いので外に出たくないです。

「勇者さん、ぼくには肉まんをはんぶんこして『寒いですね』と笑い合う夢があって」

「応援していますよ」

「いや、勇者さんと」

「がんばってください」

「勇者さんと……」

「魔王さんならできます」

「勇者さん……」

「そもそも、肉まんってはんぶんこする大きさじゃないですよね」

「やだなぁ。青春ってことですよ」

「青い春に一ミリも縁のない私たちがやることですかね」

「夢は大きく、志は高く、気持ちは強く!」

「冬なので寒いことは寒いですけど」

「肉まんをはんぶんこすることで心がぽかぽかになるのです」

「体を温めたいのですが」

「そこまでの効果はないですね」

「ていうか、なぜ外なのです」

「雪が降る帰り道、寒さでかじかむ手に息を吹きかけながら、ふたりの少女は『寒いですね』と目配せをする。はやく家に帰りたいけれど、もう少し話もしていたい。矛盾する気持ちを言い出せず、少女は小腹がすいたと肉まんを買い、半分を渡す。受け取ることは、『まだ一緒にいよう』という気持ちに『いいよ』と答えることと同義だった……」

「ご説明ありがとうございます。長い」

「ということで買ってきました、肉まん~。ぱちぱち~」

「ほんとに一つだけ買ってきたな」

「どうぞ、勇者さん!」

「テンション爆上げで肉まんを渡す光景も二度と見ないでしょうね」

「受け取ってください、勇者さん!」

「ラブレターでも渡してる?」

「小腹すいていますよね、勇者さん!」

「一時間前に昼食を食べたばかりなんですよ」

「いらないんですか、勇者さん⁉」

「だって、受け取ったら先ほどの妄想青春に加担することになるじゃないですか」

「ぼくの夢を叶えてくださいよう」

「残念ながら猫型ロボットではないので」

「猫耳カチューシャならありますよ」

「だいじょうぶです。要らないです」

「あんまんもありますよ」

「いつの間に」

「ピザまんもあります」

「妄想青春にしては食いしん坊だな?」

「全部はんぶんこしましょうね」

「結果的に一つと半分を食べることになりますけど」

「半分状態があるのでセーフです」

「想像しているような青春にはなりそうにありませんね」

「おかしいですね。ちゃんと肉まんははんぶんこなのですが」

「私たちはいつもどこかを間違えて生きているのですよ」

「チキンも買ってきますか?」

「そういうことじゃないんですよ」

「あっ、おにぎり派でした?」

「まさか、はんぶんこするつもりじゃないでしょうね」

「これまで見たことない青春の一場面になるかもしれませんよ」

「たぶん、物語に集中できなくなると思います」

「お腹がすいた時は、お米の方が腹持ちいいですけれど」

「おにぎりを食べながら会話する少女ふたり、見たいですか?」

「ぼくは勇者さんならなんでも」

「それに、おにぎりから湯気は出ません。冬のシチュエーションには不向きかと」

「おにぎり温めますか?」

「だいじょうぶです。不要です」

「湯気が出るものならいいのですよね。ラーメンなんていかがでしょう?」

「どんぶり持ちながらしゃべらせるおつもりですか」

「これまで見たことのない不審な絵になると思います」

「そうですね。出くわしたら見て見ぬふりをしますよ」

「湯気でお互いの顔も見せない少女たち」

「コメディ路線なら許可しますけど」

「優しく心に残る、静かでうつくしい友情の物語です」

「よくラーメンという選択肢を提示しましたね」

「やはり、肉まんが一番適しているということです。はい、勇者さん」

「くだらない会話をしているうちに冷めましたね」

「冷めてもおいしいのが肉まんです」

「余計に体が冷えるので、さっさと宿に行きますよ」

「これが噂の冷え切った関係?」

お読みいただきありがとうございました。

青春に憧れがある魔王さん(年齢不詳)。


勇者「とはいえ、ラーメンを出されたら足を止めちゃうかもしれません」

魔王「誘惑がすごいですもんねぇ」

勇者「座って食べたい」

魔王「もうお店に入った方がはやいですね」

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