567.会話 ダイヤモンドダストの話
本日もこんばんは。
クリスマスなので、それっぽいようなぽくないような頑張ればぽい感じのSSです。
「勇者さん、だいじょうぶですか?」
「だいじょうぶじゃないです。寒いです。眠いです。寒いです」
「ただ今の気温は氷点下十度です」
「ばかじゃないの」
「ですが、寒いことが大切なのです。もう少しですので、がんばってください」
「魔王さんが早起きした時ってろくなことがない気がします」
「早起きじゃないですよ。寝ていませんから」
「起きられないからって徹夜するのやめた方がいいですよ」
「平気です。人間じゃないので」
「まだ太陽も出ていないのに、なんで人気のない雪山に……」
「勇者さんに見せたいものがありまして」
「見せたいものってなに……」
「そろそろ太陽が出てきます。よく見ていてくださいね」
「なにを……あ」
「勇者さん、見えますか? きらきらしているでしょう?」
「すごい……。なんですか、あれ」
「ダイヤモンドダストという自然現象です。空気中の水蒸気が冷えて氷の結晶となり、太陽光を反射することでダイヤモンドのように輝くのですよ」
「きれい……」
「いくつかの条件を満たさないと見ることができないので、今日、この日に見られたことは奇跡といえるでしょう」
「今日、何かあるのですか?」
「いい子にプレゼントをあげる日ですから」
「どこにいい子がいるのやら」
「どこでしょうねぇ」
「まあ、どこかにいるいい子のおかげでダイヤモンドダストを見られたということで」
「感謝しておきましょうか」
「そうしましょう。どうもありがとう、と」
「どういたしましてです」
「なんで魔王さんが言うのですか」
「反応するひとがいた方がいいかと思いまして」
「律儀ですね。さすが、徹夜して夜明け前に私を起こしただけあります」
「晴れてよかったです」
「それも条件?」
「はい。他にも、空気が澄んでいること、風がないことなど、いくつかあります」
「何も知らずに見たら、私は魔法だと思ったでしょうね」
「自然が起こす魔法ですよ。滅多に見られません」
「あなたは長生きなので、条件が厳しくても何度も見ているでしょう」
「いえ、初めてです」
「嘘だぁ」
「最後の条件が当てはまったのは、今日が初めてなので」
「最後の条件?」
「勇者さんがいること、です」
「それは難しい条件ですね」
「でしょう? おかげで何年かかったのやら」
「そういうことならば、今日は魔王さんにもプレゼントってことですね」
「いただいちゃっていいのですか?」
「持って帰ることはできませんし」
「わあい! 喜びの舞を披露しますね!」
「真っ白な魔王さんが、雪景色の中で、ダイヤモンドダストと踊っている……。私以外のひとが見たら、聖女が神様に祈りを捧げているように見えるかもしれませんね」
「どうですか? 幻想的美少女じゃないですか?」
「黙っていてほしいなぁ」
「ダイヤモンドダストの中でうつくしく舞うぼく……。絵になりますね!」
「なんでこうなんだろうなぁ」
「聖女服をひらぁ……、慈愛の笑みで世界を照らし、愛する人間に手を差し出す……。勇者さん、いまシャッターチャンスですよ。さあ……」
「やかましいなぁ」
「ふふっ、いけませんね。ぼくってば、人間への愛が溢れちゃって」
「帰ろうかな」
「今日はすてきな一日になるでしょう。その確信がぼくには、ある」
「嫌なとこで止めるな」
「さて、ぼくのダイヤモンドダストショーはいかがでしたか?」
「すてきでしたよ。魔王さんを抜きにすれば」
「勇者さんが遠い目でぼくを見ているのには気づいていました」
「気づいていたならやめてほしかったです」
「すみません、たまには神々しさを解放しないといけなくて」
「ふざけているうちにダイヤモンドダストが消えていきましたよ」
「ぼくの神々しさに圧倒されたようですね」
「呆れて逃げたんだと思います」
お読みいただきありがとうございました。
ダイヤモンドダストの美しさはみなさまの想像力に委ねます。
勇者「とても寒いですが、きれいでしたね」
魔王「また見に来ますか?」
勇者「……………………機会があれば」
魔王「よほど寒かったんですねぇ」




