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562.会話 カレンダーの話

本日もこんばんは。

数年前のキャラものカレンダーを鑑賞用に飾ったままのみなさまに贈るSSです。

「ぼくは終わった月のカレンダーを破るのが好きでして」

「変わった趣味ですね」

「過ぎ去っていった日々が恋しくて、その日は破った紙と一緒に眠るのです」

「訂正します。やべえ趣味ですね」

「勇者さんと過ごせる時間が減っていくのを実感し、ガチ泣きしています」

「袖じゃなくて紙を濡らす魔王さん」

「悲しくてたまらない~~~」

「カレンダーを見ても何も思いません」

「それでもいいのですよ」

「ガチ泣きしている魔王さんを見ても何も思いません」

「それでもい――少しは慰めて欲しい」

「カレンダーを見ることも少ないですね。予定などない旅ですから」

「予定が欲しいのであれば、ぼくが書きますよ。よいしょっと」

「私の目がおかしいのでしょうか。『勇者さん盗撮』と見えるのですが」

「正常ですよ」

「異常の方が安心する稀有な例」

「何か問題でも?」

「せめて隠す努力をしてください」

「では、盗撮から撮影に変更しますね」

「そういう意味ではないのですよ」

「今日の予定も勇者さんの盗撮なので、さっそく一枚っと」

「堂々としていらっしゃる」

「普段と同じ態度の方が怪しまれませんから」

「よく私の前で言えますね」

「勇者さんコレクションの中から厳選し、来年のカレンダーを作るのです」

「楽しそうですね。今すぐやめろ」

「ぼくの幸せを奪うのですか⁉」

「現在進行形で私のストレスが溜まっているのですよ」

「それはいけません。はい、チョコレートどうぞ」

「お菓子で釣られるほどもぐもぐ私は安い人間ではもぐもぐありませんもぐもぐ」

「なんてちょろいお方」

「誰がちょろいって?」

「おっと、口に出ていましたか」

「白々しいですね」

「ぼく、真っ白ですからね」

「イカ墨でも買ってこようかな」

「真っ黒なぼくをご所望ですか?」

「それは神様だけでじゅうぶんです」

「たしかに」

「予定がある時はカレンダーに書いておくといいのですよね。よいしょっと」

「何を書いたのですか?」

「『神は死んだ』」

「ニーチェ勇者さん。しかも過去形」

「すでに達成されたようですね。万歳しましょう」

「幻覚でもみているんですか」

「あ、これ終わったカレンダーだ」

「予定も何もありませんね」

「やっぱり先のことを決めるもんじゃありません」

「勇者さんの立てた予定はそもそも実践不可能といいますか」

「一緒に反逆しましょうよ」

「なんて悪い誘い」

「カレンダーの祝日ではない日の数字を赤く塗るのです」

「な、なんて悪い誘い!」

「絶望しながら仕事に行くがいい」

「魔王でもやりませんよ、そんなこと」

「想像力が足りない魔王さんですね。人間の絶望は案外簡単なのですよ」

「勇者さんは祝日とか関係ないと思うのですが」

「年間休日などありませんからね」

「いつもお休みとも言え――」

「そこ、お静かに」

「勇者さんのカレンダーはいつも赤い数字――」

「静かにと言いました」

「ちなみに、ぼくのカレンダーはいつも文字がぎっしりですよ」

「何を書くことがあるのですか」

「勇者さんへの想いをひたすらに」

「予定じゃない」

「その日に言いたい気持ちが書いてあるのです」

「言えばよくない……?」

「ご覧ください。抑えきれないぼくの想いがこんなに」

「うわ、真っ黒だ」

お読みいただきありがとうございました。

カレンダーをめくる頻度に驚きを隠せないご長寿こと魔王さん。


魔王「以前はカレンダーなんて使いませんでしたよ」

勇者「以前っていつの話をしているのでしょう」

魔王「めくろうと思ったら百年前のカレンダーだったことがあります」

勇者「これだから人外は」

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