561.会話 ストライキの話
本日もこんばんは。
何もしたくないです。
「今日ものんびりぐーたらですねぇ」
「これはストライキです」
「いつもと何が違うのですか?」
「労働条件の改善を求める姿勢をとっています」
「床に転がっているように見えますが」
「強い意思を持って寝転がっています」
「昼寝する強い意思ですよね?」
「そうとも言います」
「床はやめてください。身体を痛めますよ」
「起き上がる気力すらない」
「怠惰すぎる。では、ぼくがお姫様だっこして――」
「よいしょっと」
「最後まで言わせてもらえない」
「魔王さんも一緒にいかがですか、ストライキ」
「何に対して抗議するのですか」
「この世のすべて」
「スケールが」
「たまには『何もしたくない』と大の字になってみればいいのですよ」
「勇者さんじゃないんですから」
「失礼ですね。私はそんなんじゃありません」
「おや、そうでしたか?」
「私はいつも何もしたくないのです」
「自信満々に言うことではないかと」
「我が人生もストライキしたい」
「ぼくにできることなら、改善しようと思いますので言ってみてくださいな」
「寒い時は浴室内を温めておいてほしい……」
「想像以上に不満が小さい」
「大きい不満ってなんですか?」
「世界に魔なるものが多すぎて不愉快とか」
「それは魔王さんじゃないですか」
「もっと人間たちと輪になって踊りたいのに実現できないとか」
「私、遠くから見守っているので勝手にやってください」
「新生児室で一日中、赤子様を見つめていたいとか」
「赤ちゃんのこと赤子様って呼ぶひと、初めて見ました」
「これからの未来を作っていくすばらしき命です。敬意を表さなければ」
「若干、危ないひと感が出るのはなぜなんですかね」
「すべての命に感謝」
「わかった。食事前に手を合わせるやつと同じなんだ」
「ぼくは純粋に命の誕生を喜んでいるのですが……」
「魔王だからアウトなのですが、見た目が聖なるひとなのでギリセーフ」
「ありがとうございます。うれしいです」
「労働条件の改善を求めて勇者ストライキをやったとして、神様は見ているのでしょうか。見ていないのなら、やる意味がありませんよね」
「勇者さんはいつも勇者ストライキしている時点でお察しです」
「見ていないってことですね。神様、仕事しろ」
「勇者さんにだけは言われたくなさそう」
「やかましいですね。その口、縫い付けますよ」
「どうしてすぐ物騒なことを」
「魔王さんが魔王っぽくないので、私が物騒を担当することでバランスを取るのです」
「物騒を担当」
「魔王さんはなんちゃってのほほんでも担当していればいいです」
「なんちゃってのほほん」
「魔王の仕事をがんばっているので、特別報酬くらい出してほしいです」
「勇者の仕事をがんばってください」
「そんなことしたら、バランスが悪くて滑って転んで頭を打って死にますよ」
「二日酔い?」
「魔王さんが魔王になるというのなら、考えてもいいでしょう」
「一応、裏では魔王として動いてはいますけど」
「具体的には何を?」
「えーっと……」
「すぐに出てこない。アウト」
「ま、待ってください。今のは年齢による脳機能の低下といいますか」
「魔王さんの年齢に耐えられる脳があるわけないでしょう」
「それはそうなんですけど」
「人間の機能を使っていたら、あまりの劣悪環境にストライキですよ」
「臓器がストライキすることあるんですか」
「すべてにストライキの権利があります。ほら、私の腕もストライキ中です」
「机の上の本にすら手が届いていない」
「魔王さん、取って……」
「動く気がまるでないですね」
お読みいただきありがとうございました。
何もしたくない時は寝ましょう。
勇者「私のやる気がないのではなく、私以外のやる気があるだけだと思うのです」
魔王「哲学ですか?」
勇者「つまり、怠惰の神が一番強いということです」
魔王「勇者さんのことですね」




