560.会話 魔力の質の話
本日もこんばんは。
恒例のファンタジー回です。
「あぁぁぁ~、勇者さんの魔力を感じます~」
「なんで茨ぐるぐる巻きなのにうれしそうなのですか」
「そりゃあ、身をもって勇者さんを感じているからです」
「なんか気持ち悪いです」
「ちょっとグサっときましたけど、素直なのはよいことです」
「まさか、刺が刺さっているのを楽しんでいるわけではありませんよね」
「そこまでドMじゃないですよう。ぼくはですね、きみの魔力も好きなのです」
「勇者の力のことですか?」
「それとは別です。魔法を使うために授けられた魔力のことです」
「ふむ?」
「魔力の質は人それぞれ違います。魔力感知をしたことはありますよね?」
「エトワテールでやりました」
「そのひとの魔力を知っていれば、『これはあのひとの魔力だ!』となるわけです」
「へえー、そんなことできるんですね」
「というわけで、『教えて! 勇者さん』のお時間と参りましょう」
「二桁目前の第九回ですよ」
「魔法使いの数だけ魔力の質は存在します。同じ人間がいないように」
「似ている質はあるのですか」
「同じ属性の者は似ているらしいですが、感知が得意なひとなら区別可能です」
「私は無理そう」
「実はですね、全く同じではないが、ほぼ同じ質が存在するのですよ」
「抜け穴のようですね」
「ズバリ、一卵性双生児の魔法使いです」
「双子ということですか」
「はい。ひとつの魂をふたつに分けたとされているため、そもそも魂の質自体も似ているという状態になるそうです。まあ、本に書いてあったことの受け売りですけど」
「双子で同属性の魔法使いなら、どっちでしょうかと遊ぶことができますね」
「魔力感知に優れた人でも区別することはかなり困難だそうです」
「魔王さんはできますか?」
「人間の魔力って、そもそも複雑なので……」
「さらに複雑になると勘弁してくれってことですね」
「見守るくらいがちょうどいいです……」
「人間の魔力と魔なるものの魔力は違うんですよね」
「はい。以前も言ったように、魔なるものの魔力は人間にとって毒です」
「それを浄化したら、安全な魔なるものに変わるのでは……?」
「浄化したら消滅するんですよ」
「改心の余地もないのですか」
「あれらに改心するための心なんてありません」
「魔王さんには?」
「ぼくの心にはいつでも人間に対するびっぐらぶがいっぱいです」
「胡散臭さも魔王さんのいいところですよ」
「褒められている気がしないのですが」
「身をもって感じてください」
「ああああ~……、棘が食い込む~……」
「どうですか、私の称賛は」
「ずきずきしますねぇ」
「喜んでいただけて何よりです」
「これはもう、魔力の質というより、単純に棘の攻撃なんですよね」
「さて、たまには私も勇者っぽいことをしましょう」
「茨でぐるぐるのぼくにこれ以上なにを……?」
「魔王さんの魔力を感じようと思います」
「ぼくの魔力を感じてくれるんですか⁉」
「やっぱりいいや」
「なにゆえ」
「調べなくてもわかりますので」
「唯一無二ですもんね!」
「めちゃくちゃ魔なるものって感じです」
「え、もしかして、あんまりいいものじゃないですか?」
「ご自分が何者か、ご存知ですか」
「人間大好き魔王ですよ」
「そうですね、魔王です。いいですか、魔王ですよ」
「魔王に何の問題が……?」
「わかりませんか?」
「全くわかりません」
「神様に教えてもらったらいいんじゃないですか」
「あれが言うことなど信用に値しません」
「では、私が教えましょう。魔なるものの魔力は……」
「魔なるものの魔力は……⁉」
「ふわぁ~あ、眠くなってきちゃった……」
「勇者さん⁉ 魔なるものの魔力はなに⁉」
お読みいただきありがとうございました。
魔法使いや魔女でも、学ぶ場がなければ知らないことが多いです。
勇者「カメラから魔王さんの痕跡を感じます」
魔王「そもそも、持ち主がぼくですからね」
勇者「危ないオーラがします」
魔王「誰が不審者ですか」




