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56.会話 コーヒーの話

本日もこんばんは。

コーヒー片手にお読みください。

「コーヒーが入りましたよ。勇者さんもご一緒にいかがですか?」

「いただきます。ところで、コーヒーってなんですか」

「見ての通り、黒い液体です。コーヒー豆を焙煎し、挽いた粉から作る飲み物で、世界中に愛飲者の方がいらっしゃいます。そのまま飲んでもよし、お好みでミルクやお砂糖を入れ甘くしてもよしですよ」

「このままだと甘くないんですか」

「苦みがあります。それが好きという人もいますが、ぼくは苦いのだめなので」

「角砂糖をいち、に、さん……八個も入れるんですか。さすがに甘すぎでは――って、ミルクの量がコーヒーの半分以上だと思うのですが、コーヒーの味します?」

「だって苦いんですもん」

「コーヒー好きの人に怒られますよ」

「ミルクを入れるコーヒーはカフェオレといって、れっきとしたメニューです。怒られることなど何ひとつしていません。えへん」

「私は初めて飲むので、とりあえずこのままいただきます。……うむむ、変な味」

「お口に合いそうですか?」

「きらいな味ではないですね。口の中がコーヒーに占領されますけど」

「苦いでしょう?」

「うーん、そこまででもない気がします。これはこれでおいしいですよ」

「なっ、なんと勇者さん。ブラックがいけるとは……、すてきです!」

「なぜ驚くのです。好みの問題でしょう」

「コーヒーをブラックで飲めるだなんてかっこいいじゃないですか……! それだけでオトナって感じがします」

「ずいぶん簡単な大人ですね」

「ぼくも一時期憧れたんですよ。ブラックコーヒー片手に魔王城で優雅に勇者を待つ魔王……。どうです? かっこいいでしょう?」

「理想と現実は相反するものですね。実際は砂糖とミルク過多の甘ったるいコーヒーを飲む魔王ですから。めっちゃ弱そう」

「ブラックコーヒーチャレンジは何度もしたんですけど……。あまりの苦さに吹き出すか吐き出すかでまともに飲めませんでした」

「どうあがいても口から出すんですね。飲み込め」

「咽頭が拒絶するんです……。毒には反応しないのに」

「咽頭が壊れているんじゃないんですか? そうです、毒と一緒に飲んでみればいいのでは。これどうぞ」

「自然な手つきで渡さないでください。何が入っているんですか、この小瓶」

「安心してください。ただの猛毒です」

「安心要素が何ひとつないのですが……。ちなみに何の毒ですか?」

「みんな大好きテトロドトキシンです」

「中毒確定じゃないですか! 解毒剤もない危険な毒を当たり前のように持ち歩かないでください。万が一勇者さんの口に入ったら危ないでしょう」

「だいじょうぶですよ。魔王さんにしか使いませんから」

「それなら安心――できない」

「まあまあ、ちなみにコーヒーに合うスイーツとかないんですか?」

「なんでも合うと思いますよ。苦いぶん甘いものが欲しくなりますよね」

「魔王さんの口はすでに甘いでしょうけど」

「コーヒーの甘さとスイーツの甘さは別ですから。ちょっと見てきますね」

「お願いします。……さて、このテトロドトキシンどうしましょうか。甘い味がするというエチレングリコールの方が使い勝手がよさそうなんですけどね。ただ、毒性を考えると圧倒的にテトロドトキシンですし……。やっぱり何かに混ぜるのが一番確実ですね。私は料理をしませんから、飲み物か……。ミルクとは色が違うので怪しまれるでしょうし……。テトロドトキシンって固まるんですかねぇ。角砂糖というにはちょっと無理が……おっと、いけない。魔王さんが帰ってきますね。小瓶は……ええい、ここでいいや」

「ただいまです~。ブラウニーがあったので持ってきました。あと、チョコレートとクッキーも」

「ありがとうございます。ん? 机に置いたその瓶はなんですか?」

「シロップです。二杯目のコーヒーに入れようと思いまして」

「また甘くするんですね」

「おいしく飲むのが一番ですよう。シロップなら透明ですし、たくさん入れてもまるでブラックコーヒーを飲んでいるように見えるでしょう?」

「そうですね……。まあ、ほどほどにしてくださいね」

「勇者さんもシロップ入れますか?」

「いえ、私は結構です」

「じゃあぼく、全部入れますね」

「えっ……。うわあ……、甘そう……。私は入れるとしてもミルクを少しですね……」

「魔王特製シロップコーヒーのできあがりです~。とびっきり甘くしたコーヒーは格別ですよ~」

「糖尿病まっしぐらですよ。……そうだ、魔王さんがコーヒーを味わっている間にテトロドトキシンを仕舞っておかなくては。…………おや」

「苦いっ‼ 苦いですうう‼ ねえ勇者さん、あれだけシロップを入れたのに甘くないです。ほんとうに咽頭が壊れちゃったのかもしれません!」

「ねえ魔王さん、ここにあったテトロドトキシンの小瓶、どこにいったか知りませんか」

「勇者さんが仕舞ったんじゃないんですか? …………えっ、まさか」

「あとで仕舞おうと思って机に置いたんですよ。そういえばあの小瓶、魔王さんが持ってきたシロップの瓶とよく似ていましたね」

「……そ、そうですね」

「…………」

「…………」

「コーヒー、お味はどうですか?」

「舌が痺れるほど苦いですう……」

お読みいただきありがとうございました。

このあと魔王さんは泣きながらシロップを全部入れたそうです。


魔王「コーヒー片手にお菓子を食べる勇者さんも絵になりますねぇ」

勇者「そういうあなたは変な顔ですね」

魔王「さっきのコーヒー……苦くて……舌が……」

勇者「……飲まなきゃいいのでは?」

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