559.会話 鏡の話その➁
本日もこんばんは。
前回の鏡の話は第78話です。ずいぶん前のように思えますね。
「急に鏡がほしいなんて、どうしたのですか? もしかして、やっとご自分の超ぷりてぃーきゅーとらぶりー具合に気がついたのですね? そうなんですね⁉」
「違います」
「謙遜しなくていいのですよ。勇者さん、きみは最高にかわいいです」
「ほっといてください」
「鏡といっても種類はたくさんあります。どんなものがいいですか?」
「鞄に入れても場所をとらない大きさで、使いやすいもの……?」
「なぜ疑問形」
「鏡なんて買う予定がなかったので」
「ですが、ほしいと思ったのでしょう。何か理由でもあるのですか?」
「読んだ本に書いてあったんです。『女の子なら鏡を持っていて当然』だって」
「えっっっっっっ? 理由がかわいすぎるんですけど?」
「私は女の子ではなかったのですね」
「判定ガバガバ勇者さん」
「理由はもうひとつあります」
「お聞かせください」
「手鏡でメイク直しをしているふりをして、背後の敵を観察したいです」
「スパイ映画?」
「メイクなんてしたことないんですけどね」
「先に道具だけ揃えるのもいいと思います。勇者さんにぴったりの鏡を探しましょう!」
「これでいいや」
「もうちょっと……、もうちょっと選ぶ過程も楽しみたいなって……」
「私にはよくわかりませんよ」
「鏡の意匠で選ぶのはどうでしょう。お花、季節のイメージ、動物、水玉などなど」
「魔王さんは鏡を持っていますか?」
「はい、女の子ですから」
「ツッコんだ方がいいですか?」
「いえいえ、お構いなく。ぼくが持っているのはこんな感じですね」
「見間違いでしょうか」
「勇者さんの視力は正常ですよ」
「『勇者さんびっぐらぶ』って刻まれているのですが」
「はい。特注品です」
「作った人、困惑したでしょうね」
「今の時代、推しグッズで身を固めることは楽しみのひとつですよ」
「きれいな手鏡なのに、文字のせいで使いたくないです」
「ぼくは毎日使っています」
「手鏡って具体的にはどういう時に使うんですか?」
「勇者さんが言ったように、お化粧をする時や、ちょっと気になった時でしょうか」
「背後の敵を確認しますか?」
「やったことないですね。勇者さんに悪口を言った人間の髪を焼いたことならあります」
「どゆこと?」
「鏡は光を反射するでしょう? 真夏の太陽光を薄っぺらい頭部に照射したのですよ」
「魔王の攻撃とは思えませんね」
「ただでさえ薄い毛の毛根を死滅させる勢いでした」
「魔王さんがキレたことはわかりましたよ」
「こんなにかわいいのに、悪魔だとか死神だとか失礼しちゃいます」
「放っておけばいいんですよ」
「勇者さんも、誰かにひどいことされたら毛根を攻撃してくださいね」
「聞いたことないアドバイス」
「情けない悲鳴をあげて逃げていきますよ」
「人間大好きじゃないんですか?」
「大好きですよ。勇者さんを傷つける人以外」
「……。でも、鏡を見て武器だとは思いません。誤魔化せるのは利点ですね」
「鏡は鏡としか思わないでしょうね」
「そういえば、魔法陣は円形の物体に刻みやすいんでしたっけ」
「よく覚えていましたね。はい、陣が円形のため、同様の形のものの方が比較的刻みやすいとされています。身近な例とすれば、アナスタシアさんの指輪ですね」
「たとえば、鏡に魔法陣を刻んで、開いた時だけ発動する魔法とか」
「理論上は可能だと思いますよ」
「紋所みたいに使えますか?」
「水戸勇者さん」
「テキトーに神様のマークでも掘っておきますか」
「うげぇ……、やめてください。勇者さんの持ち物にあれのマークなど」
「めちゃくちゃ嫌そうな顔ですね」
「いやですもん」
「その辺の信心深い人間には効きそうですけど」
「ご自分の存在をアピールすればいいのですよ」
「効かないのが私です」
「鏡に『ゆうしゃ』と書いておきましょうか」
「弱そうな中納言だなぁ」
お読みいただきありがとうございました。
この場合の『ゆうしゃ』はへにゃへにゃの崩れたテキトーな字です。弱そう。
勇者「これといってピンとくるものがありません」
魔王「旅をしていれば出会うこともあるでしょう」
勇者「はやく背後の敵を倒したいのに」
魔王「用途から勉強しましょうか」




