556.会話 台風の話
本日もこんばんは。
台風の日は外に出てはいけないという法律を作った方がいいと思うのです。
「勇者さん、今日は外に出てはいけませんよ」
「頼まれても出ませんよ。この強風と大雨の中なんて」
「いやぁ、台風ですね!」
「魔王さんのせいですか」
「違います。自然現象ですよ。昔はぼくのやんちゃによって発生したこともありますが」
「これだから魔王は」
「この時期は台風の被害が多いのですよ。人間が勝てるものではないので宿で待機です」
「自然の強さは承知済みですが、魔なるものとどちらが強いのでしょうね」
「そりゃあ、自然ですよ」
「そうなんですね」
「ちなみに、存在としてはぼくも自然側みたいなものですよ」
「その割には煩悩が多すぎます」
「意思疎通ができる自然も新しいと思いませんか?」
「人間みたいな姿で言われても説得力がありません」
「えー、そうですか? そんじゃあ、魔王ぱぅわぁー見せちゃおうかな~」
「……っ! か、風で窓が……」
「割れないとは思いますが、一応、窓際から離れて――って、もういませんね」
「お布団バリア」
「小さく丸まっちゃった。べりーきゅーと」
「これまでにない攻撃力を感じます」
「台風ですもんね。普通の暴風雨とは異なります」
「宿がガタガタいっています。吹き飛んだりしませんよね……?」
「だいじょうぶですよ。屋根が吹っ飛ぶ程度です」
「だめじゃないですか」
「いざという時はぼくが守りますから」
「魔王さんの服、無駄にひらひらしているから風で飛んでいきそうです」
「無駄にひらひら」
「輪っかに物が引っかかって連れ去られそうですし」
「木の枝がよく引っかかりますよ」
「もう魔王さんは終わりだぁ」
「ぼ、ぼく、そんなに弱いと思われているのですか」
「今のうちに棺桶を作っておいてあげますね」
「ありがとうございます。必要ないですけど」
「めんどうなので椅子にします。よいしょっと」
「一瞬でやる気を失いましたね」
「台風による音が大きくて、昼寝するにも落ち着きません」
「危険を感じる音ですもんね。ぼくがよしよししてあげましょうか?」
「爆音B級映画作戦」
「うわ脳が言語として理解しようとしない支離滅裂会話が大音量で」
「これはこれで疲れますね」
「消したはずなのに、耳の奥で響いている気がします」
「……っ! び、びっくりした……」
「ひときわ大きな風の音ですね。勇者さんならあっさり飛ばされるでしょう」
「ハッ、私も空を飛べる……?」
「想像だけに留めてくださいね」
「空を自由に飛びたいなー」
「台風の風で自由にはいかないでしょう。もみくちゃにされて地面に叩きつけられます」
「こわいこと言わないでください。とてもリアルに想像しちゃったじゃないですか」
「それは勇者さんのさじ加減ですよ」
「私の想像力を舐めないでください。年齢制限まっしぐらの再現映像を出せますよ」
「吸収力がいいのも考えものですね」
「とんでもない大雨ですが、バケツを置いたら何秒で満タンになるのでしょうか」
「バケツが消え去ると思いますよ」
「お水飲み放題だ」
「飲んでる場合ではないかと」
「ダイナミックお風呂ができる?」
「雨はあまりきれいではありませんので……」
「台風のいいところがないじゃないですか」
「まあ、こればかりは難しいですねぇ」
「台風の中を魔王さんが笑いながら飛んでいったらおもしろいのに」
「ぼくに何を期待しているのですか」
「指さして笑いたいです」
「それで人間の方々が幸せになるのなら、ぼくはやりますよ」
「別にならないかな」
「そっか……」
「さみしそうな顔しないでください。魔王さんはいつも私を楽しませてくれますから」
「ゆ、勇者さん……!」
「お昼ごはんはオムライスを作ってくれますし、おやつにフルーツタルトまで用意してくれます。夕ごはんはクリームシチューですし、お風呂に入浴剤を入れてくれるのですよ」
「あ、これ褒められているようでただのリクエストだ」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんは音もなく吹き飛ばされるタイプです。
勇者「台風の時って、魔物とかどうなるんですか?」
魔王「雑魚は死にますよ」
勇者「台風に負けるんですね」
魔王「自然の方が強いのです」




