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555.会話 金木犀の話

本日もこんばんは。

きれいな花が出てこようと会話はやっぱりくだらないです。

「……なんだか、不思議な香りがします」

「それは花の香りでしょう。ほら、見てください」

「……すごい。こんなにたくさん咲いているなんて気づきませんでした」

「朱色のような、黄色のような花は、甘い香りが特徴的なんですよ」

「光に照らされると金色に光っているように見えます」

「勇者さんの純粋な感想を聞くのが好きな魔王です」

「なんという花なのですか?」

「金木犀といいます。秋に咲く花ですよ」

「名前がかっこいいですね。ゴールドジュピターですか」

「それは木星ですね」

「香りが強いので、武器に使えたら強そうです」

「花粉攻撃ですか」

「年間ティッシュ消費量を倍増させてやります」

「地味に出費がかさむやつ」

「私が金髪だったら、金木犀に紛れて隠れられそうです。白と金も似合いそうですね」

「ぼくのことですか? お任せください、金木犀に想いを馳せる魔王の姿をご覧に――」

「風に揺れる雰囲気もいい感じです」

「見て――」

「こんなに香りが強い花があるんですね」

「聞いて――」

「あ、そうだ。アナスタシアに似合いそうじゃないですか?」

「勇者さん――」

「ひとりだけ雰囲気が違いますよ。はやく戻ってきてください」

「花と美少女の絵なんて全人類が喜ぶのに」

「すみません、全然見てませんでした」

「ぼく、お花になっちゃったのかと思いました」

「さすがに花と会話する能力はないですね」

「いいえ、お待ちください。世のプリンセスは動物と会話すると聞きます」

「理想と幻覚」

「勇者さんは勇者です。不思議な力があってもおかしくな――あってください」

「願望と欲望」

「隠さなくていいんですよ。ほんとうはできるんでしょう? お花と会話」

「できるわけないじゃないですか」

「さあ、金木犀の声に耳とか心とか肩とか指とかを傾けてください」

「花に声とかあるんですか」

「あったらいいなという気持ちと、そんなもんあるわけないという気持ちです」

「現実は見ているんですね」

「勇者さんがお望みなら、ぼくが金木犀の声を代弁しますよ」

「欠片も望んでいませんよ」

「では、ぼくのために演じてください」

「演じるって言っちゃった」

「花と美少女の組み合わせが最高すぎて、勇者さんを花畑に放り投げたいです」

「欲に素直なのはいいですが、ちゃんと制御してくださいね」

「金木犀の木に置き去りにしていいですか?」

「真顔で言われるのこわいな」

「もちろん、写真や動画を撮ったあと、存分に眺めてから回収します」

「私は人形か」

「金木犀の香りに染まった勇者さんをどうすると思いますか?」

「うわ聞きたくない」

「ぼくにも理性というものがあるので、この先は割愛しますね」

「せっかくきれいな花があるのに、どうしてこういう話になってしまうのでしょう」

「うれしいですか?」

「かなしいですよ」

「そんな、こんなにきれいな花なのに」

「むしろ、きれいな花だからこそ、私たちのテキトーさが際立ってしまうのです」

「ギャップ萌えですよ」

「発言がやべえひとに言われたくないです」

「ぼくはいつもこんな感じですよ」

「見た目だけなら清楚なのになぁ」

「勇者さーん、見てください。タイトル『金木犀とぼく』」

「しゃべらなければなぁ……」

「穏やかな笑みを浮かべちゃいますよ」

「うわ神々しい」

「慈愛の微笑みです。脳内にすやすや眠る勇者さんを思い浮かべるとできます」

「後半いらないよう」

「白くうつくしい髪をふぁさ……とやってみます」

「そうだ。音量ゼロにしよう」

「――――! ――。―――――!」

「うん、いい感じ。でも表情がやかましいですね。顔を背けよう」

「もう見てすらいないじゃないですかー!」

お読みいただきありがとうございました。

花の力を借りてもくだらなくなるので、もう打つ手がありません。


魔王「ぼく、神々しいでしょう?」

勇者「肯定したくないですね」

魔王「ぼく、まじ美少女でしょう?」

勇者「黙っていればね」

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