552.会話 月明かりの話
本日もこんばんは。
ロマンチックっぽいサブタイですが、内容はお察し。
「今日は月明かりが眩しいですねぇ。夜でも見通しがいいですよ」
「あ、魔物がいる」
「見なかったことにしないでください。気がついたら倒す。勇者のお仕事ですよ」
「月明かりがあるせいで、私が勇者にならないといけないじゃないですか」
「元から勇者なんですよ」
「明るいと私たちの存在もバレますし、いいことありません」
「フード被って丸まる勇者さんは月明かりの下でも真っ黒ですよ」
「魔王さんは光に照らされてより真っ白ですね」
「すみません、輝いちゃって」
「やかましいわ」
「迷える人々を救いたいです」
「もうちょっと考えてからしゃべってください」
「我が使命を思ってのことです」
「人間を救う?」
「イグザクトリー」
「どうでもいいので、私の前に来てください」
「見つめ合いますか?」
「陰ゲットです。これで安心して魔物を無視できる」
「すでに勇者さんの存在に気づかれたようですよ」
「おのれ魔王さん」
「ぼ、ぼくは何もしていませんよう」
「魔王さんがいるから魔物がいるのでは?」
「うーん、まあ、そう言われると、ううーん、すみません」
「謝罪は結構なので、倒してきてください」
「勇者さんの仕事では……」
「月明かりに照らされたあなたを見れば、百人中三百人が勇者だと言うでしょう」
「どこから湧いてきたのですか」
「若干うざい後光とともに光で消滅させてきてください」
「消滅させるほどの強い光魔法を使うと、夜の世界に光が満ち溢れますよ」
「ロマンチックな言い方しないでください」
「光に照らされるのはきみとぼくだけでじゅうぶんです。魔物は地べたに這いつくばれ」
「月明かりが眩しくて眠れない……」
「お休みモードに入ってしまわれた」
「魔王さんがまっしろしろすけなせいです」
「反射しちゃってますか?」
「おかげで魔王さんの顔も声も形もわかりません。唯一、アホ毛だけわかります」
「光の中でアホ毛だけ見えているのも不思議ですけど」
「視界が閉ざされた時こそ、物事の本質が見えるのです。そう、魔王さんの本体が……」
「眠い状態でおしゃべりしてくれていることはわかりました」
「月明かりなんていらないのですよ。見えたら不都合なことばかりですから」
「おや? 勇者さん、あそこに青い花が咲いていますよ」
「おはな……?」
「月明かりに照らされて、青く光っているように見えます。もしかしたら、月明かりがある時しか咲かなかったりして!」
「……ほんとだ。きれいですね」
「好都合なことがありましたねっ」
「見たことない青い花です。ほんとうに淡く光っているように見える……」
「明るい夜も悪いことばかりではないようですね」
「こちらに魔物が突進してきている気配がしますが、それは」
「悪いことです」
「月明かりがなければ、あれは私たちに気づかなかったと思いますが、それは」
「雑魚なので勇者さんをスルーしたことでしょう」
「不都合……」
「……すっ」
「あ、隠した」
「おおっ、青い花がたくさん咲いています。幻想的な世界ですねぇ」
「幻じゃなくて現実を見てください」
「名前を調べておきましょう。もしかしたらとてもレアな花かもしれません」
「おーい、帰ってきてくださーい」
「押し花にしてもいいですね。アクセサリーにしてもすてきです」
「見えてる? それとも見たくない?」
「さぞかし勇者さんに似合うことでしょう!」
「こちらからは見えませんが、たぶん魔物がすぐそこにいます」
「邪魔!」
「魔王さんの回し蹴りなんて始めて見ました」
「あ、やばいです。足をつりました」
「かっこつかないですねぇ」
「い、痛いですぅ……。ぐはっ……」
「倒れ込んだ魔王さんを包む青い花々。そう、夜の世界で永遠の眠りにつくように……」
「殺さないでください?」
お読みいただきありがとうございました。
ご高齢に回し蹴りは危険。
魔王「しばらく動けませんので、気をつけてくださいね」
勇者「胸の前で手を組まないでください」
魔王「ぼくは穏やかに眠ります」
勇者「妙に神聖なのが腹立ちますね」




