551.会話 冬服の話
本日もこんばんは。
服の種類が多すぎて頭がパンクします。
「勇者さん、そろそろぼくの言うことを聞いてくださいませんか?」
「服はいりません。必要最低限だけでいいのです」
「冬服の準備をしないと、寒い時に困りますよ。特にきみは」
「誰が軟弱ですか」
「ですから、きみです」
「寒いのは平気です。慣れていますから」
「寒さに強いこととただ耐えることは別物です。これまではぼくの『勇者さんに着せたい服コレクション』の中から半ば強制的に冬物を着せましたが」
「着させられました」
「どうせなら、きみが着たいものを着て欲しいのです。どんな服がいいですか?」
「着やすい服で……」
「では、僭越ながらぼくが勇者さんにおすすめの冬服を紹介していきますね」
「こんにちは服のお店。いらっしゃいませ私」
「まずはケープです。袖がないので動きやすいと思いますよ」
「あ、いい感じですね。着やすそうですし、ラクそうです」
「次は、ポンチョに大きめのケープ袖がついたガナーチです。フード付きもありますよ」
「フードは重要です。考案したひと、ありがとう」
「さらにさらに、トレンチコートです。おしゃれなものがたくさんありますよ」
「私に似合うでしょうか」
「他にもトッパーコート、ダッフルコート、テディベアコートなんてものも!」
「種類がありすぎてよくわかりません……」
「毎日違うものを着ますか?」
「どこの国のお姫様ですか」
「魔王城の勇者さんということで」
「ああ、なるほど。……なるほど? 違います。危なかった」
「ぼくの願望を言ってみてもよろしいですか?」
「いつも願望しか言ってないような気がしますが、どうぞ」
「勇者さんは小柄ですので、ダボっと着ている姿を見るとドキッとするのですよ」
「はあ、そうですか」
「そういう意味では、ケープはキュン度が高いです」
「きゅんど」
「ですが、トレンチコートを鮮やかに身に付ける勇者さんもおしゃれです」
「着心地はどうなのでしょうね」
「テディベアコートに包まれる勇者さんもそーきゅーと……」
「あったかそうですよね」
「はあ……、想像するだけで、ぼくの心はぽかぽかです」
「便利なからだですね」
「どうですか? 気に入ったものはありましたか?」
「お布団の代わりにもなりそうなポンチョは良い感じです」
「寝る気ですか」
「いざという時のお布団ですよ。ブランケットを被っているみたいで安心します」
「勇者さん、たまにブランケットおばけになっていますもんね」
「お布団被りたい」
「では、とりあえずポンチョを買って、あとこれとこれとこれもあれとそれも買って」
「ちょっ……と、いま何着かごに入れました?」
「さあ?」
「一着でいいです。戻してきてください」
「気が変わって着たくなるかもしれないですよ」
「あるものを着ますので、戻してきてください」
「あれば着るのですね。よし、買ってきます」
「都合のいい解釈やめてください。ああああ、待ってください」
「勇者さんの冬服げっと~。あとは、コート類ではない冬服ですね!」
「それは今度でいいですので」
「では、今度買ってくれるのですね?」
「い、ううう……、買わ、う、あああう……」
「そこまで迷わなくても」
「だって、そんなに何着もいりませんよ。普段はローブを着ていますし、寒い時はコートを着てしまうので、中がどんな服かなんて見えませんし」
「それでも、すてきな服を着ていることに変わりはありません」
「魔王さんが着ればいいじゃないですか」
「推しを着飾ってこそ楽しいのですよ」
「私はいま、貢がれている真っ最中ということですか」
「そういうことです。大人しく貢がれてください」
「あまり聞かないセリフですね」
「久しぶりの勇者さんに関するお買い物にぼくの金貨が火を吹きます」
「久しぶりでしたっけ」
「ぼくにとっては三時間ぶりです」
「さっき」
「お会計はいくらかな。ふむ、金貨三枚ですか。安いですね」
「高いですよ。へ、返品!」
お読みいただきありがとうございました。
作中で金貨とか円とか使っていますが、実際は金貨です。円表記はわかりやすくしているだけです。
勇者「服を買うだけで金貨なんか普通使いませんよ」
魔王「そうですか? 割と使うと思いますけど」
勇者「どれだけ高級な服を着ているんですか……」
魔王「ぼくじゃなくて、勇者さんの服ですよ」




