547.会話 そばうどんの話
本日もこんばんは。
山や田舎に行くと遭遇する謎の現象。
「山の方に来るとお店がそばやうどんばかりですよね。不思議です」
「理由は様々ですが、水がきれい、冷涼である、斜面などの狭い土地でも栽培可能であることから、そばが広まったと考えられるそうですよ」
「そば職人が誘拐されたわけではないのですね」
「むしろ、自ら望んで来る人もいます」
「てっきり、家族を人質にとられ、泣きながら山奥でそばを作らされているのかと」
「ぼくの知らない間に、勇者さんの中で事件が起きていたのですね」
「この世をそば屋で埋め尽くすことを野望にする敵が、手始めに人の少ない山間部から蹂躙しているのだと思っていましたけど、違うのですね」
「事件は解決しましたか?」
「いえ、まだです」
「真犯人は別にいます、と言われるかと思いました」
「なぜ、これだけそばうどんの店があるのに潰れないのでしょうか」
「意外と人が来るのでは?」
「きょろ、きょろ、きょろ。どこに人が?」
「ぼくたちのような旅人とか」
「きょろ、きょろ、きょろ。どこに旅人が?」
「ぼくたちです、ぼくたち。見えてますか? ここです、おーい」
「誰もいないようですね」
「目の前!」
「旅人が来るとしても、数はしれています。団体客でもいるのでしょうか」
「大人数で移動する集団はあると思いますけど」
「……なるほど。ピーンときちゃいました、私」
「名探偵勇者さん」
「食事をしに訪れたお客さんを、そば屋はそばに変えているのですよ……」
「怪談っぽく言われましても」
「信憑性は抜群です」
「信憑性ゼロ具合が抜群なんです」
「せっかく大事なところを抜かしたのに」
「大事だから抜かしちゃだめなんですよ」
「次にそばになるのはお前だ」
「こわ……くはないですね」
「そばにされると思ったらうどんにされた被害者もいるはずです」
「どちらでもいいような」
「そば派とうどん派の戦いに油を注ぐ行為ですよ」
「入れるのは出汁ですけど」
「平和を脅かすお客さんがきた時は、魔なるもので作った毒そばを提供します」
「魔なるものを退治できる時点で平和が保たれているような気がします」
「毒そばでやられたお客さんは、店長によって店の奥へと連れて行かれるのです」
「そばにされるのでしょうか」
「いえ、新メニューの味見役」
「あれ、おいしい役じゃないですか」
「そばを運ぶしか能のない店長による地獄の新メニュー考案会議ですよ」
「それはえっと、そういうことですか?」
「情報が遮断された山奥です。アイデアを運んでくるのは魔物くらい」
「ゲテモノの予感」
「おかげで普通のお客さんまでやられてしまう」
「だめじゃないですか」
「そうして生まれたのがこちらのお店です」
「潰れているじゃないですか」
「数があれば競争に負けるお店だってありますよ」
「ゲテモノを出したからだと思いますけど」
「私のつくり話を真に受けないでくださいね」
「あ、そうでした。息をするように物語を捏造するものですから」
「息をするより簡単です」
「人間が下手すぎる勇者さん」
「おかげで疲れてしまいました」
「かなり歩きましたもんね。お昼ごはんにしましょうか」
「選択肢がそばかうどんしかない」
「そばうどんにも種類はあるでしょうし、丼ものもあると思います」
「お刺身の気分」
「ここ山ですよ」
「残念です。海持ってくればよかった」
「サンドイッチみたいに言わないでください」
「こんなに景色もいいのに」
「木木木緑緑緑ですよ」
「多種多様なそばうどんの看板もあって」
「大体どれも同じような」
「そばにされてしまうことだけが懸念点です」
「つくり話ですよね?」
お読みいただきありがとうございました。
おいしいお店を見つけた時はテンション上がるのですが、二度目はたどり着けません。
勇者「おそばおいしいです」
魔王「そばにされる気配はなさそうですね」
勇者「というより、お店の人の気配もないのですが」
魔王「あれ、どこ行きました? お会計どうすればいいの⁉」




