544.会話 眼帯の話
本日もこんばんは。
現実的な方とフィクションの方がありますが、今回は後者の眼帯のお話です。
「勇者さん、眼帯というものをつけてみませんか?」
「何に使うのですか」
「一般的には医療用ですが、フィクションの中ではファッションのひとつとして使われていることもありますよ。今日は後者の方ですね」
「フィクションとか言っちゃっていいんだ」
「実は、魔族が眼帯をして人間を騙すことに成功したと報告を受けまして」
「それはよかっ――だめじゃないですか?」
「はい。魔なるものを示す赤目を隠す方法が確立されるのは困りますので、この報告は揉み消しましたし、報告してきたやつを潰しておきました」
「やつって言った」
「眼帯もつけられないくらいめちょめちょにしてから塵にしました」
「擬音が気味わるいです」
「ですが、眼帯で目を隠すというのは名案です。人間が使うものですし、旅人であれば目の負傷は不自然に思われません。むやみやたらに使うのは推奨できませんけどね」
「でも、片方を隠しても、もう片方はどうするのですか」
「花でも生やしますか?」
「私はまだ人間でいたいので遠慮します」
「勇者さんがつけているリボンの位置をちょっとずらす」
「目からリボンもちょっと」
「新しいことわざを創りましょうよ」
「意味は『強めの遠慮』でお願いします」
「魔族によると、もう片方は髪で隠したそうですけど」
「私の場合、黒髪なので効果は薄そうですね」
「いっそのこと、両目眼帯にしますか?」
「何も見えないことしか問題はありませんね」
「それが一番問題でした。視界は重要です。十数年で慣れた感覚は捨てられません」
「外が透けて見える眼帯はないのでしょうか」
「ゆ、勇者さん、年齢制限の扉を開けるのですか⁉」
「何を想像しているのか知りませんけど、絶対に違うとだけ言っておきます」
「透け透け眼帯があれば解決なんですけどねぇ」
「ネーミングに悪意ありません?」
「ですが、それがあれば、ぼくも寝ているフリして勇者さんを眺め放題?」
「このひと、自分の欲のことしか考えていない」
「まあまあ、眼帯といえば様々な種類があることをご存知でしょう」
「いえ、知りませんけど」
「最もポピュラーなのはガーゼタイプの眼帯でしょうか。紐で結ぶやつです」
「本で見たような気がします」
「フィクションかつ用途はファッションなので何を言っても許されると思って言います」
「謎の釈明が入りましたね」
「勇者さん、ガーゼを抑える紐をリボンにしたらかわいいと思いますよ!」
「お医者様に怒られればいいです」
「ぼく、魔王ですもーん」
「リボンね……。私が集めているものを言っていますか?」
「はい。きれいなもの、かわいいもの、すてきなもの、たくさんありますから」
「まあ、それならオシャレとして判断され、追及を免れられるかもしれませんね」
「ぼくとしては、真っ赤なリボンがいいと思うんですよう!」
「眼帯の意味が四割くらい失われましたよ」
「赤目と赤色のリボンは全く別物です。この世の仕組みを舐めちゃだめですよっ」
「つまり?」
「全身赤色コーデでも、異端の目で見られるか標的にされるか牢屋に入れられるかその他諸々ですが、赤目なら殺意一択ですからね!」
「前半も割とひどいな?」
「どんな方法であれ、赤目を隠せた方が勝ちなのです」
「実践して成功した魔族の株が上がっていきますよ」
「実験結果だけ横取りしましょう」
「嫌な教授みたいですね。夜十時だったら殺害対象まっしぐらですよ」
「ドラマ出演の話ですか? 喜んでお受けしましょう」
「両目眼帯のくせにまるで見えているかのように全てを言い当てる――」
「おおっ、新しい名探偵の姿ですね」
「犯人」
「犯人だったら視界は鮮明の方がいいですねぇ」
「を恨む聖女の妹の友達の親戚の親のこどもの知り合いの近所の年齢不詳のひと役」
「を恨む聖女の妹の友達までが許容範囲ですね」
「そこまで許してくれるのが驚きです」
「ぼくは演技派ですからね」
「人間を騙し続けて云万年ですもんね」
「ここまで経験を積めば、ぼくは眼帯がなくてもだいじょうぶなのです」
「あなた、青目でしょう」
「すみません、神々しくて。おっと、光が漏れ出てしまいます」
「眼帯で抑えておいてください」
お読みいただきありがとうございました。
常時片目隠しは生活難易度高いと思います。世の眼帯キャラはすごいです。
勇者「片目を隠すだけで距離感がわからなくなります」
魔王「ぼくもです」
勇者「そう言いながらまっすぐハグしに来ていますよね」
魔王「バレた」




