539.会話 招き猫の話
本日もこんばんは。
今日は招き猫の日なんだそうです。みなさまに福が訪れますように。
「猫の置物だなんて、魔王さんも不思議なものを買いますね」
「それはですね、招き猫というのですよ。にゃあ、です」
「説明をどうぞ」
「美少女による猫真似がスルーですって……⁉ 右手を上げる招き猫は金運や幸運を招き、左手を上げる招き猫は商売繫盛や縁結びに効果があるとされています」
「これは左手を上げているのですね」
「勇者さんとよい縁が結ばれますように、と思いまして」
「もう結ばれていると思いますよ」
「えっっっっっ⁉」
「腐れ縁」
「ああああー……、腐れ縁ですか……。まあ、たしかにそうかも……ですけど……」
「見るからに落ち込みましたね。招き猫どうぞ」
「猫ちゃん、ぼくにすてきな縁をください……」
「招きうさぎはないのかな」
「招き魔王なら」
「胡散臭いですけど、一応、話は聞いてあげます」
「どこから出てきたのでしょう! こちらの金貨があれば望みは叶うでしょう」
「ポシェットから出しましたよね」
「ある程度のことはお金が解決できます」
「現実味のある魔王ですよ」
「勇者さんも『にゃあ』って言ってみませんか?」
「嫌の極み」
「ぼくの命が助かるんですよ」
「魔王の命を奪うのが勇者の仕事です」
「勇者ファンクラブの会員たちも泣いて喜ぶんですよ」
「非公認」
「待ってください、今から右手を上げるように変更してもらいますから」
「何言っているんですか。これは置物ですよ」
「こちらをご覧ください」
「右手バージョンも買ってるんかい」
「これでいいとこどりです」
「欲張りですね。両方失っても知りませんよ」
「だいじょうぶです。ぼくは魔王ですから」
「あ、上げている方の手が動くんですね。おもしろい」
「おいでおいでと言っているみたいですね」
「おいで……、おいで……」
「なんでホラー調」
「おびき寄せたところを、背後から羽交い締め」
「物理的なこわさが出てきましたね」
「金品を奪って逃走します」
「ただの強盗じゃないですか。金運の招き猫が泣きますよ」
「お金は手に入りますよ」
「清く正しい入手方法でお願いします」
「魔王さん、金貨ありますか」
「もちろんです。どうぞ」
「ちゃりーんっとな」
「これ、貯金箱にもなっていたのですね。全然気がつきませんでした」
「ハッ……! ピーンときちゃいました、私」
「また何か思いついたようですね」
「人間は猫の下僕だと本に書いてありました」
「んもう、変な本ばっかり読む」
「つまり、本物の猫に貯金箱を背負ってもらい、にゃあにゃあ鳴いていただけば……?」
「人間たちはお金を入れまくる?」
「ザッツライト」
「そう簡単にいくでしょうか」
「かわいいものを前にすると、知能指数は著しく低下することが確認されています」
「そんな研究結果があるのですね」
「これで金欠勇者から脱却できます」
「ぼくの存在はご存知ですよね?」
「さっそく猫を捕まえに行きましょう」
「ほ、ほんとにやるんですか」
「心配せずとも、時給はお支払いしますよ」
「その心配をしているんじゃないです」
「では、一体なにが?」
「むしろ、なぜ躊躇いなく行動に移せるのか不思議ですよ」
「だって、猫はかわいいでしょう」
「わざわざ猫ちゃんを捕まえなくても、勇者さんが猫耳をつけて『にゃあ』と言えば金貨の雨が降るのですよ」
「魔王さんがそういうことを言うからです」
「あ、勇者さんの猫パンチかわい――両手やめてぇぇぇ!」
お読みいただきありがとうございました。
二分の一で猫パンチが飛んでくる招き猫、いいと思います。
魔王「招き魔王の置物でも作ろうかと」
勇者「魔なるものがおびき寄せられるんですか」
魔王「そして、まとめて倒すのです」
勇者「魔物ホイホイ」




