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538.会話 アーグルトンの話

本日もこんばんは。

またよくわからないアルファベットサブタイのお時間です。

「勇者さん、次の目的地なんですけど、アーグルトンという町に行きませんか?」

「町の名前を言うなんて珍しいですね。何か有名なところなんですか?」

「そうですよ」

「構いませんよ。どうせ目的地のない旅ですから。それで、どこにあるんですか?」

「ありません」

「はい?」

「アーグルトンという町は存在しません」

「……からかってます?」

「いいえ。存在しないと言われていますが、確かめるまでは存在するとも言えます」

「……ん?」

「シュレーディンガーの町ですよ、勇者さん」

「よくわからないのですが」

「この世界はとても広いです。ぼくでも知らない場所はたくさんあります。ということは、存在しないと思っている町が存在し、存在していると思っている町が存在しない可能性はじゅうぶんにあると思いませんか?」

「理屈はわかりましたけど、場所が確定的でないのなら行きようがありません」

「こんな時、勇者さんならどうしますか?」

「そうですね……。アーグルトンという町を作ります」

「軽率創造神」

「ないなら作るまで」

「では、ぼくは隣町に『勇者と魔王のまったり王国』を作りますね」

「ネーミングが三歳児」

「勇者さんがプリンセスです」

「今すぐ滅ぼしますよ」

「勇者さんったら魔王みたいなことを」

「でも、あるかどうかわからない場所を目指すというのはおもしろそうです」

「おや、興味でました?」

「『こういう場所に行ってみたい』と思うのは、旅人にとって普通のことですよね」

「例えば、どういう場所に行ってみたいですか?」

「うさぎ王国とか」

「あったらうれしいですね!」

「人間のいない国とか」

「亡国が該当するでしょうか?」

「この世界だけどこの世界ではないところとか」

「曖昧ですが、それもいいと思います」

「私も知らないことの方が多いのです。次に立ち寄る町がアーグルトンでも驚きません」

「新しく町ができることだってありますもんね」

「一番可能性があるのは、かつて存在したけど、今はもうない町でしょうか」

「名前だけ残ったパターンですね」

「もしくは、名前に物語が尾ひれのようについた可能性」

「勇者の物語には、実際は存在しない英雄譚が語られていることもありますからね」

「真実なんて誰にもわかりませんよ」

「そうですねぇ。ところできみは、先ほどから何をしているのですか?」

「その辺に落ちていた木片を看板のように組み立てているのです」

「それはわかりますが……」

「魔王さん、何か書くものありますか?」

「ペンでよければ」

「ありがとうございます。板にこうして、文字を書いたら……、できました」

「『この先アーグルトン』ですか。ですが、それは存在しない町ですよ」

「町を示す案内板を作ることで、あたかも存在するように見せかけているのです」

「ふむ。何のために?」

「ンロマのためですよ」

「勇者さん、位置が」

「間違えた。ロマンのためですよ」

「存在しない町がロマンですか」

「ないと思う自分と、あると信じる自分。それはまるで、埋蔵金を探す高揚感と同じ」

「アーグルトン埋蔵金説が生まれた瞬間です」

「私たち以外の旅人が何を目的に旅をしているかは知りません。でも、何年後、何十年後にアーグルトンを探す旅人がいるとして、この案内板は希望になるのです」

「ですが、町はないのですよね」

「いいですか、魔王さん。この案内板の存在意義は、『かつての存在証明』ですよ」

「最初から何もなかったのではなく、あったけれど失われたということですか」

「まさしく。そもそも存在しないことと、かつて存在したことは全く別物です」

「えーっと、勇者さんが楽しそうなことだけわかりました」

「すでにないのなら、いくらでもでっち上げることができます」

「でっち上げって言っちゃった」

「『勇者と魔王もいるよ』と付け足しておきましょう」

「『いたよ』ではなく?」

「もちろん。なんてたって、これから私たちは確かにアーグルトンに行くのですから」

「数十年後が楽しみですね」

お読みいただきありがとうございました。

そこにないならないです。


勇者「ところで、アーグルトンってヨーグルトに似ていませんか?」

魔王「まあ、少し」

勇者「ヨーグルトの町かぁ。どんな場所なのでしょうね」

魔王「こうしてアーグルトンの町は消えたのでしょうね」

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