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536.会話 説明書の話

本日もこんばんは。

説明書のSSってなんぞやと思ったそこの方。天目も同じこと思っているので安心してください。

「勇者の説明書というものを作ってみました」

「すると、ご自分の説明書ということですよね。読んでもいいですか?」

「どうぞ」

「その一、触らない。その二、見ない。その三、そっとしておく」

「よろしくお願いします」

「これは猫ちゃんの飼い方ですか?」

「一行目をご覧ください」

「なるほど。勇者さんは猫ちゃんだったのですね」

「魔王さんの説明書も作りましたよ」

「ほんとですか! わくわく。えーっと、その一、殺」

「以上です」

「もはや動詞ですらないじゃないですか」

「あまり多用するべきではないと思いまして、配慮しました」

「この漢字を使っている時点で同じことかと」

「滅にしますか?」

「鬼退治の人たちと被るので、却下で」

「では、亡の方で」

「ああー、画数にも配慮していただけて」

「中にお肉や野菜を入れたいですよね」

「そうですね。そう――何の話ですか?」

「亡ってお鍋っぽくないですか?」

「魔王を倒す話からお鍋に転換されるのは勇者さんだけですよ」

「道具に付属している説明書って読むのがめんどうなんですよね」

「ですが、注意点などが記載されていますから、重要ですよ」

「もっと簡潔に書いてほしいです」

「その結果が勇者と魔王の説明書なんですか?」

「はい。簡潔に書けました」

「ぼくに至ってはその二すら存在しませんからね」

「必要ですか?」

「曇りなきまなこ」

「いらないですよね」

「有無を言わせぬ眼差し」

「ほしいならご自分で足してください」

「わかりました。その二、なでなでする」

「やはり説明書など不要です。破いてしまいましょう」

「お、落ち着いてください。まだその三がありますよ」

「ここから挽回できるのですか?」

「お任せください。その三、ハグをしてあげると元気になるでしょう」

「破」

「あああ……、悲しきかな」

「時には諦めることも重要です」

「そこまで難しいことは書いていませんよ」

「ハグだなんて……、そんなおそろしいこと私にはとてもできません」

「ハグに『抱きしめる』以外の意味ってありましたっけ」

「あったりなかったりしたりしなかったりしますよ」

「ややこしいです」

「私はないと思います」

「じゃあハグじゃないですか」

「そんなおそろしいこと私にはとても」

「あ、その四を付け足している。なになに……、『ハグ厳禁』」

「ピンポイントアタックという技です」

「ぼくにだけ効く技じゃないですか」

「攻撃力は一万とんで二十三です」

「キリが悪い」

「歴代の勇者たちの必殺技だと聞いたことが」

「えっ、そうでしたっけ? ぼく、勇者さん以外で見たことない気がします」

「ないですけど」

「あ、なかった。また過去を捏造しようとしましたね」

「それだけ長生きですから、多少嘘を混ぜてもバレないと思いました」

「混ぜるどころか全部うそですからね」

「魔王さんの説明書に書いておくべきだと思いますよ。認知症って」

「まだそこまでいっていません。これまでの勇者さんとの旅はばっちりおぼえています。さらに、歴代勇者さんのお顔も覚えて……います」

「言葉が途切れた時点で覚えていない自覚があるってことですよ」

「ぐすん」

「泣きながら『認知症予備軍』って書いている。切ない」

「記念に写真撮らせてくださいって言っても、断る勇者さんも多くてぇ……」

「それはそうでしょうね」

「ただの思い出ですよ?」

「勇者側からすれば遺影ですから」

お読みいただきありがとうございました。

ああ言っていますが、魔王さんは全勇者さんを覚えていると思います。そういうひとです。


勇者「魔王さんが事あるごとに写真を撮ろうとするのって、そのためだったんですか?」

魔王「違いますよう。単純に撮りたいだけです」

勇者「欲望丸出し回答ありがとうございます」

魔王「こちらこそです。では、一枚。……じょ、冗談ですよう」

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