534.会話 十五夜の話
本日もこんばんは。
2024年の中秋の名月は9/17なのだそうです。きれいに見られるといいですね。
「勇者さん、今日は月がきれいに見える日なので、お月見をしましょう」
「えーーー、いいですよ」
「渋ったふりをしてあっさり受け入れる勇者さんもすてきです」
「あ、おだんごだ」
「お月見だんごです。よく噛んで食べてくださいね」
「もぐもぐ」
「勇者さん、ご存知ですか? 月にはうさぎさんが住んでいるのですよ」
「うそだぁ」
「ほんとですって。ほら、じーっと見てみてください」
「うーん……? 見えませんよ」
「え、ほんとですか? ……おや、いまは家に中にいるみたいですね」
「何を見ているのですか?」
「ライブカメラです」
「らい……なに?」
「今の月の様子をリアルタイムで見ることができるのですよ」
「ふうん。便利なものがあるのですね」
「あ、出てきました。ほら、かわいいですよ」
「あ……、三匹もいる。かわいいで――あれ、かぐやさんだ」
「彼女のペットですから」
「そうなんですね。いいなぁ、うさぎさん三匹と暮らす日々」
「名前はタイ、シャク、テンです」
「たいしゃくてん……? 不思議なネーミングですね」
「勇者さんもお望みなら、ツキうさぎを飼いますか?」
「ツキうさぎって、種類のことですか? 初めて聞きました」
「魔物ですからね」
「そうきたか」
「ですが、魔力でできているだけで、他は普通のうさぎとほぼ同じですよ」
「『ほぼ』というのが気になります」
「好物はお月見だんご。しゃべる。色は白色。餅つきが得意」
「かわいい……」
「地上から月までジャンプできます」
「すご……。え、すごい……」
「その脚力で敵を粉砕するそうですよ」
「勝てる気がしません」
「頭を撫でたら勝てますよ。なでなでされると溶けますから」
「かわいい……」
「液体になるんです」
「溶けるって、そういう意味なんですか?」
「溶けるとクレーターの中で固まり、別の部分からぴょこっと顔を出すのですよ」
「クレーターって変化するものなんですね」
「たぶん、かぐやさんが撫でるたびにクレーターは変わっていると思いますよ」
「そんな頻度で変わっていいものなんだ」
「彼らが走り回り、スタンピングするごとに小さなクレーターができるそうです」
「そのうち月がなくなっちゃうんじゃないですか」
「そうならないように、ツキうさぎは餅つきをするんですよ」
「私が観ている謎映画の展開くらい、よくわかりません」
「彼らはついた餅を小さなクレーターに詰め、補修をしているのです」
「偉い」
「たまに、臼をはめる用のクレーターを埋めてしまい、泣くのだそうです」
「かわ――切ない」
「ぴったりのクレーターを作るのは難しいらしいですね」
「私、こんなに月に行きたいと思ったのは初めてです」
「行っちゃいやですぅぅぅぅぅ!」
「寸劇版竹取物語みたいなことしないでください」
「ぼくは弓を構えますからね」
「撃てるんですか?」
「いやだなぁ、勇者さんったら。命中率はゼロパーセントですよ」
「一とゼロがそれぞれひとつずつ足りないようですね」
「ぼくが弓なんて使えると思いますか?」
「覚悟の足りない勅使だな」
「魔王の力で勇者さんを囲みます」
「こうして挑んだ戦いで、人間側はこてんぱんにされたんでしたっけ」
「ぼく、人間じゃないですもん!」
「ツキうさぎってふわふわなんでしょうか?」
「いけません、勇者さん! 誘惑に負けちゃだめです!」
「ミソラと一緒に遊びに行きたいですね」
「お、おだんごありますよ? ほら、ススキで遊びましょう?」
「それが蓬莱の珠の枝?」
「そ、そうです!」
「さすがに無理がありますよ」
お読みいただきありがとうございました。
ふさふさな蓬莱の珠の枝。
勇者「うさぎの魔物もいるんですね。いいこと知りました」
魔王「ミソラさんに怒られますよ」
勇者「彼女はぬいぐるみです」
魔王「勇者たる者、魔物にうつつを抜かすなどあってはならな――聞いてます?」




