529.会話 粘土の話
本日もこんばんは。
今日はねんどの日ということで、勇者さんに紙粘土で遊んでいただきました。
「今日は紙粘土を買ってきたので、これで遊びたいと思います」
「幼稚園?」
「勇者さーん、先生と一緒に遊びましょうねー」
「誰が園児だ」
「絵の具で色をつけることもできますので、自由に作ってみてくださいな」
「魔王さんはやらないんですか?」
「ぼくは見守り専門です」
「全然一緒に遊ぶ気のない先生ですね」
「また謎物質を作り出す可能性しかありませんから」
「紙粘土って初めて触りましたけど、こんな感じなんですね」
「のほほんとしていますけど、当然のようにうさぎさんを作ってい――」
「何か?」
「いえいえ、お好きなものをどうぞ」
「ふりふりドレスのミソラです。どうでしょう。えっへん」
「得意げな勇者さんもよき~~~~~!」
「ふわふわではありませんが、このミソラもいいですね。完成っと」
「これも魔王城に飾っていいですか?」
「こどもの工作に占領される家庭?」
「魔王城にくるひとたちに見せびらかすのです」
「見せんでいい」
「これは勇者さんが〇歳の時に作ったうさぎさんなんですよって」
「ほぼ全部、同じ年齢になりますよ」
「では、記念に一枚」
「ふふっ、まったくもう、すぐ撮ろうとするんですから」
「あ、今日は穏やかな感じ! もしかしていけるかもしれな――」
「だめです」
「だめだった」
「こっちでなら許可します」
「紙粘土で作ったカメラですか。すごいですね」
「ちゃんとシャッターも押せますよ」
「細かい」
「なんと写真もここから」
「出てくるんですか⁉」
「そんなわけないでしょう」
「紙粘土の概念を覆したのかと思いました」
「私はちっぽけでつまらなくてくだらなくて取るに足らなくてしがない人間です」
「そこまで言わなくても」
「そんな私に、紙粘土の概念を覆すことなどできません」
「そんな大層なことでもないような」
「千三百年の歴史を持つんですよ?」
「奈良?」
「畏れ多いことです」
「歴史だけでいえば、ぼくの方がありますよ」
「魔王さんが参戦したら、誰も勝てません」
「えへんなのです」
「別に褒めてはいませんけど」
「ぼくは勇者さんのありとあらゆることを褒めたいです。いつの間にか増えている動物シリーズ紙粘土、お上手ですね。動物園でも開くおつもりですか?」
「最後に人間を作ります」
「世界の縮図」
「ライオンに食べさせて完成です」
「弱肉強食の世界」
「かわいそうに」
「勇者さんに憐れみの心が!」
「おいしくなさそうな私を食べるライオンが」
「これ、勇者さんだったんですか。というか、ご自分をエサにしないでください」
「血の匂いがするかなって」
「なんですかそれ。ケガをしているわけでもないのに――まさか」
「そのまさか」
「いつの間におケガを⁉」
「ではありません」
「してないんかい。いや、よかったですけど」
「紙粘土でケガをするほど、貧弱ではありませんよ」
「人間紙粘土が真っ赤なので、ドキッとしました」
「赤い絵の具をふんだんに使用しました」
「豪華な料理みたいな言い方ですね」
「人間丸々ひとりのフルコースですよ」
「視点がライオンなんですけど、どうしました?」
「一番上手に作れたんです」
「理由がかわいい。百億点」
お読みいただきありがとうございました。
相変わらず器用な勇者さん。
勇者「『世界の縮図』というタイトルで展示するならいいですよ」
魔王「ぼくのセンスだと思われちゃいます」
勇者「魔王の威厳に一役買うでしょう」
魔王「紙粘土の時点でそんなものありません」




