527.会話 お面の話
本日もこんばんは。
暗闇で見れば、屋台で売っているキャラクターのお面もこわいと思います。
「勇者さんが部屋から出なくなって二時間が経ちました」
「…………………………魔王さん」
「やっと出てきてくれましたね。待っていましたよ、勇者さん」
「全部、魔王さんのせいです」
「猫ちゃんが怒っているみたいですね」
「ぶんなぐ」
「略してきた。すみません、まさかここまで驚くとは思わなくて」
「ほんとうに思いませんでした?」
「ちょっと思いました。なんならそれを期待していたぼくもいます」
「ぶんなぐ……!」
「まあまあ、落ち着いてください。ぼくはいつだって勇者さんの味方ですよ」
「私の敵になりたくてそうしているようにしか思えないのですが」
「ただお面を被っただけですよ?」
「そのお面が問題だと言っているのです。なんですかあれ、魔法道具ですか?」
「何の変哲もないお面ですよ。遠い東の国では能面とも呼ばれています」
「のーめん」
「なにゆえ、そんな難しいお顔をするのです?」
「麺がない……。超ヘルシーラーメンのことですか?」
「落ち着いてください。ちゃんと落ち着いてください」
「私、麺のないラーメンはとても悲しい食べ物だと思います」
「勇者さん、落ち着いてくださいね」
「魔王さんがのーめんを被るから、私は混乱の極みにあるのですよ」
「混乱しているのはぼくの方かと。超ヘルシーラーメンって何?」
「これ、人間を驚かせるのにぴったりですね」
「すぐそういうこと言うんですから」
「怖がらせて、腰を抜かさせて、金品を拝借しようっと」
「ナチュラル犯罪」
「私が使っても効果ありますか?」
「インパクトはあると思いますよ。現に勇者さん、めちゃくちゃビビった――」
「魔王さん、こわいですか?」
「いいえ。勇者さんだと思っているので、一ミリも」
「こわいって言ってください」
「嘘はつけませんよう」
「あ、手が滑った」
「こわい! 大剣が目の前に!」
「こわいですか?」
「勇者の力がこわいです。あと、遠心力やめてください。ケガをしますよ」
「…………」
「勇者さん? 能面をじっと見つめても動いたりしませんよ」
「なんでそういうこと言う」
「だって、勇者さんが『こわい……』って顔をしているから」
「そんな顔していません。ただ、ちょっと不気味というか、威力があるというか」
「独特ですものね」
「……呪いの効果とか、ありますか?」
「なんで小声」
「被った者は死ぬまで踊り続けるとか」
「そんな感じの物語があったような、なかったような」
「のーめんの人格に乗っ取られ、自分自身を失ってしまうとか」
「おそろしい効果ですね。あったらぼくがぶっ壊しますよ」
「自分の顔がなくなってしまう。これがほんとの『ノー面』……。なんちゃって」
「かわいい~~~。ありがとう勇者さんの寒いギャグ~~~」
「褒められている気がしない」
「あ、お面を被ると勇者さんのお顔が見えないじゃないですか」
「魔王さんの視線がうるさくて」
「ぼくの視線は攻撃ではありませんよ?」
「見えないはずの文字が見えるんですよ。愛とか好きとかびっぐらぶとか」
「伝わっているようでうれしいです」
「二枚重ねにしよう」
「苦しくないですか?」
「結構きびしい」
「勇者さんが勇者さんでなくなっています。取ってくださいな」
「私が私じゃなくなる……? のーゆうしゃ?」
「勇者さん、お疲れなら休憩にしましょう。ぼく、お菓子を作りますよ」
「お菓子? わぁい」
「あの、能面を被ったまま喜ぶのはちょっと」
「おっかし、おっかし、三時のおやつー」
「あの、絵面がかなり、あの、勇者さん、あの」
「心配しなくても、私は元気ですよ。リビングで待っていますね」
「せめてほんとうの顔でしゃべってください」
「あなたに言われたくないです」
お読みいただきありがとうございました。
能面が若干トラウマになりかけた勇者さん。
勇者「勇者のお面を被ればいいのでは?」
魔王「どういう顔ですか?」
勇者「先代の顔をお面にして作っておくのです」
魔王「……それは、普通の人間のお面では?」




