526.会話 飛び出す絵本の話
本日もこんばんは。
勇者と魔王の飛び出す絵本、読んでみたいですね。
「勇者さん、この本を開いてみてください」
「何か企んでいますね?」
「企んでいます!」
「素直かつ元気でよろしい。……絵本ですよね? なんだろう。……わあ、すごい」
「飛び出す絵本というものです。絵が描かれた折り畳み構造により、開くと立体的な絵と文章を楽しむことができるのですよ。わくわくしませんか?」
「よくできていますね。動物たちがパーティーしている。……かわいい」
「飛び出す絵本を楽しんでいる勇者さんがかわいい~~!」
「このうさぎさん、勇者なのですね」
「うさぎの勇者と猫の聖女、犬の魔法使いとアライグマの魔王の物語です」
「突然のアライグマ」
「こども向けなので、みんな仲良しみたいですね」
「平和な世界だなぁ」
「普通の絵本より少し値が張りますが、そのぶん満足感もばっちりなのです」
「ただ読むだけより楽しめそうですね」
「魔力のいらない魔法、再びです」
「あ、花畑だ。すごいですね。どうなっているんだろう」
「考えたひとは頭がいいのでしょうねぇ」
「私も作ってみよう」
「聞き間違いかな?」
「開いた時に立体的な構造になるようにするには……、こうでしょうか」
「わお! できていますね!」
「簡単なものであれば難しくありません。これに絵を描いて……」
「立体的なうさぎさんですね」
「小さな飛び出す絵本です。どうですか?」
「天才だと思います」
「出来を訊いているのですが」
「あ、とてもすてきだと思います」
「ほんとかなぁ」
「ぼくは本心しか言いませんよ」
「それもどうかと思いますけど」
「勇者さんに嘘ついてどうするんですか。必要な時は別ですけども」
「魔王さんの頭も飛び出ているようなものですもんね」
「どういう意味ですか?」
「感情の勢いがすごい」
「若干、いやそうですね」
「若干、いやです」
「ですが、ぼくはぼくであることを辞められません。今後も飛び出して行きます」
「嫌な宣言だな」
「勇者さんも飛び出していいのですよ。ぼくが受け止めますから」
「『ハグしたい』を他の表現にするとこうなるんですね」
「割と危険なことに飛び込むことで有名な勇者さんですが」
「また嫌な評判だな」
「その内、自ら魔族の前に飛び出して行きそうでぼくはひやひやしています」
「勇者なら当然のことでは?」
「せめて、ぼくに一言いってからにして欲しいです」
「勇者、いきまーす」
「もうちょっとぼくを労わってください」
「労わるポイントありました?」
「勇者さんが心配で心配で震えるんです」
「一瞬、恋愛ソングかと思いましたよ」
「それでは聞いてください、『心配で』」
「売れなさそう」
「では、プロデューサーさんの一言により、タイトルを『飛び出して』に変えます」
「誰がプロデューサーだ」
「二曲目は『みんなで渡ればこわくない』」
「交通ルールの歌?」
「ちゃんと手を挙げて渡るんですよ」
「魔王さんはアホ毛を掲げてくださいね」
「そうですね。センサーのように高らかに――って、無茶言わないでください」
「動かないんですか?」
「がんばれば、たぶん」
「魔王さんを労わり、アホ毛を立体的にしてあげましょう」
「既に立体的ですよ」
「開いたら飛び出すアホ毛」
「アホ毛の絵本は読みたくないですね」
「あれだけオシャレに見えた絵本が……、どうして……」
「勇者さんがおかしなこと言うからですよ」
「プレゼントされたこどもがギャン泣き」
「ぼくのアホ毛に何の罪が……」
お読みいただきありがとうございました。
なんでかロマンチックにならないんです。
魔王「ぼくの持ち歌にしようかと思います」
勇者「あんまり聞きたくないです」
魔王「愛をこめ、前のめりになって歌います」
勇者「飛び出すな」




