525.会話 玉ねぎの話
本日もこんばんは。
食べ物ですが、食欲を刺激しないタイプのSSです。
「なんで家の中でゴーグルをしているのですか?」
「ぼくは今から、とても強力な敵と戦うのですよ」
「手に持っているの、玉ねぎですよね」
「超級レベルの魔物と同じくらい強いです」
「本気で言っています?」
「ぼくはこれまでに何度も負けています」
「負けてるんだ」
「玉ねぎには催涙成分が含まれていて、切ることで細胞が破壊され、気化することで目や鼻に影響をもたらすのですよ。玉ねぎを切るのであれば、避けて通れない道ですね」
「魔王さんは魔王ですよね」
「そうですよ」
「玉ねぎに負ける程度のひとなのですか?」
「勇者さんってば、ぼくを誰だと思っているのですか。そうですよ」
「否定しろ」
「いやぁ、世の中には魔力を持たずとも強い存在がいるのですねぇ」
「ただの玉ねぎでしょうに」
「栄養もあって強い。尊敬します」
「プライドはないってことでいいんですよね」
「魔王が聖女服を着ている時点でそんなものありませんよう。あっはは」
「それもそうですね」
「玉ねぎって生でも料理にしてもおいしいので最高ですよ」
「オニオンスープ好きです」
「勇者さんが好き嫌いなく何でも食べるので、料理のしがいがありますよ」
「魔王さんの料理姿に欠片も疑問を抱いていません。最初が肝心でしたね」
「家庭的な魔王を売りにしています」
「玉ねぎの催涙成分は魔王さんにも効く。つまり……?」
「繰り返しますが、ぼくは人間に合わせていますからね」
「玉ねぎ爆弾魔法の開発をしましょう」
「誰用ですか?」
「使い道が思いつかないので、とりあえず魔王さん用で」
「魔法にしなくとも、既にぼくはこてんぱんですよ」
「そのゴーグルを外してから言ってください」
「人間は古来より、自分より強いものへの対策を行ってきました」
「魔王さんは魔王」
「どうすれば負けないのか。考え、導き出した答えとともに生きてきたのです」
「それがゴーグル?」
「いえーす」
「似合わない」
「ぼくとしても、勇者さんが見えにくいので不満です」
「外せばいいじゃないですか」
「勇者さんが追加の玉ねぎを置いてきてくれれば外しましょう」
「玉ねぎを切りながら号泣する魔王さんなんておもしろいもの、見ないわけには」
「もしかして笑ってます? ゴーグルでよく見えないんですよ」
「真顔です」
「そうですか。いたずらっ子みたいなお顔が見えた気がしたのですが」
「ゴーグルを取ればわかるんじゃないですか」
「玉ねぎがある限り、ぼくはゴーグルを取りませんよ」
「もはや不審者ですね」
「ぼくには見えます。玉ねぎを使った料理をおいしそうに食べる勇者さんが……」
「視界が悪いはずでは?」
「おっと、足の指をぶつけま――いった!」
「ゴーグルを取れ」
「だめです。まだ切り終わっていません」
「そんなに玉ねぎを使うのですか?」
「新鮮なうちに使いたいと思いまして。ほら、きれいな色でしょう?」
「ゴーグル越しだと腐った色に見えると思いますよ」
「艶もいい感じですし、香りも……、完璧です」
「わかる? ほんとに艶わかる?」
「おや、こっちにもすべすべお肌のすてきな勇者さんが――」
「えいっ」
「ああああああゴーグルが!」
「玉ねぎをさくさくさくさくさく」
「いけません勇者さん、包丁なんて危ないものを使っ――というか、どういう持ち方が危ないですよ以前に言ったやり方で持ってくだ――あああああ目にしみますぅ!」
「攻撃力が高い」
「ぼくの視界が攻撃されている隙にきみがケガをしたら困りますよ!」
「だいじょうぶです。もう切っていませんよ」
「それならいいのですが……って、うずくまってるじゃないですか。ケガですか⁉」
「いや、目が……、やばい……、です……」
「きみまでくらっているじゃないですか」
お読みいただきありがとうございました。
玉ねぎ、味方にいたら絶対強いタイプの糸目キャラだと思います。
勇者「全然回復しません」
魔王「今ならハグできるかも……!」
勇者「あ、治った」
魔王「それはよかったです……」




