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522/722

522.会話 千手観音の話

本日もこんばんは。

見た目が強そうな千手観音についてのお話です。

「ま、魔王さん、これ見てください。とんでもないです。とにかくとんでもないです」

「どうしました? ああ、千手観音ですか。遠い国の信仰対象ですよ」

「センジュカンノン……! 名前まで強そうですね」

「千本の手は、すべての生きとし生けるものを漏らさず救うためにあるそうです」

「まるで勇者や聖女のようですね」

「この国の出身だった勇者は、千手観音をモデルにした武器を使っていましたよ」

「想像したら絵面が強い」

「千本マジックハンド」

「……うーん?」

「意外と強くてびっくりしました」

「強かったんだ。コメントしづらいな」

「マジックハンド一つひとつに武器を持ち、上手に使いこなしていましたよ」

「生きとし生けるものを救うというより、生きとし生けるものを滅する方が近いかと」

「常に半分程度を伸ばしていないと、武器が絡まってケガをするのだとか」

「勇者ってそういうとこありますよね」

「いろんな勇者さんがいましたねぇ。しみじみ」

「私、千手観音が敵に出てきたら勝てる気がしません」

「この方は敵ではなく味方寄りかと」

「光魔法を使ってきそうですよね」

「あ、わかります。物凄く強い光魔法を放ってきそうです」

「魔王さんも顔負け」

「ぼくだって千手観音と戦いたくないですよ」

「世界規模の戦いになりそうですね」

「世界というか、概念というか」

「私は橋の下から観戦していますね」

「もう少し見やすいところに来たらいいじゃないですか」

「攻撃を防ぐために橋をお借りしているのですよ」

「ぼくが結界を作りますから」

「千手観音は結界ごとき、容易く破壊してきますよ」

「ぼ、ぼくだって魔王です。善戦してみせます」

「私のようなちっぽけな人間は直視されただけで死ぬでしょう」

「千手観音を何だと思っているのですか?」

「ていうか、なんでこんなに強そうな見た目をしているのでしょうか」

「救いを求めた人間の想像力によるものかと」

「魔王さんも腕千本にしてみませんか?」

「見たいですか? 腕千本のぼく」

「一キロくらい離れて見ます」

「明らかに怖がっているじゃないですか」

「さすがにドキッとします」

「まごうことなき畏怖の感情だと理解できるので、間違っても『ぼくのこと好きですかっ? んもう、勇者さんたら~。きゃっ』とか言えません」

「間違えなくても聞きたくないセリフです」

「やっぱり人間に合わせるのが一番平和なのですよ」

「でも、腕は四本くらいあった方が便利じゃないですか」

「怠惰な使い方をするおつもりでしょう」

「私を誰だと思っているのですか。その通りですよ」

「その通りだった」

「動かずともお菓子を食べたり本を読んだりテレビを操作したり布団をかけたり」

「勇者さんのことだから、その内、腕を動かすのがめんどうと言い出しそうですね」

「その内と言わず、もう既にめんどうですよ」

「さすが勇者さん。期待を裏切らない」

「千手観音さんも、きっと千本もあると日々の生活が大変でしょう」

「一応、神様ですけどね」

「手洗いとか時間かかりそう」

「消費する洗剤がえらいことになりそうですね」

「生活費に頭を抱えていそう」

「千本の手で抱えるとなると、めちゃくちゃ悩んでいるように見えますね」

「切ない」

「神様ですからね?」

「あ、そうですよ。神様なのできっと取り外し可なんです」

「人々を救ったら、よいしょっと外すのですか」

「普段の千手観音さんは二手観音さんなのですよ」

「それは普通のひとですね」

「今日も一日疲れたなぁって言っていてほしいです」

「どんなひとにも苦労はあるのでしょうね」

「お風呂に入っている間に九百九十八手を勝手にお借りして」

「んん?」

「千手勇者になって無双状態を楽しんでからお返しします」

「だめですよ。ちゃんと許可取らないと」

「注意するとこ、そこでいいのでしょうか」

お読みいただきありがとうございました。

千手観音はアタックタイプかなと思っている天目です。


勇者「多ければいいってものでもないのでしょうね」

魔王「それぞれの大変さがあるのでしょう」

勇者「千手観音の愚痴大会とか開催されているのでしょうか」

魔王「いろんな世界がありますねぇ」

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