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519.会話 きびだんごの話

本日もこんばんは。

おだんごだけで鬼退治するのは少し厳しいと思います。

「魔王さん、魔法道具の中には食べ物も存在するのでしょうか」

「あ、たぶんあると思いますよ。食べると魔法の効果を発揮するものですね」

「つまり、そういうことなのですね」

「どういうことかお伺いしても?」

「桃から生まれたモモタロサンは、魔法道具によって仲間を従えたのです」

「モモタロサン、お久しぶりですね」

「相手をコントロールするなんて、強力な魔法じゃないですか」

「ぼくが大っ嫌いなタイプの魔法です」

「なんでそんなに怒っているんですか」

「魔王の力が介入できないから怒っているのです。神様に」

「握った拳から物凄い音が」

「勇者さん、魔法道具の食べ物なんて絶対に食べちゃいけませんよ!」

「こちらにきびだんごがあります」

「どこで買ったんですか」

「買っていません。道端で配っていたのです」

「怪し過ぎる。ぽいです」

「一切の慈悲なく棄てられた」

「毒でも入っていたらどうするのですか」

「魔王さんに毒見させれば平気かなって」

「それはそうですけど。誰か知らないひとからもらったきびだんごなんて怪しいです」

「鬼退治のために仲間を募集しているかもしれませんよ」

「この世界の敵は魔王です。勇者さんがいれば問題ありません」

「私、勇者の仕事していませんけど」

「そうなんですよねぇ。困っちゃう」

「きびだんごが魔法道具だとすると、きびだんごを渡したおじいさんおばあさんは……」

「何かひらめいたようですね」

「二人は魔法使い……?」

「日曜の朝かな」

「かなり技術のある魔法使いかと。人だけでなく、動物までコントロールするとは」

「人?」

「何を隠そう、モモタロサンですよ」

「あれ、どういうことです?」

「おじいさんとおばあさんは、モモタロサンに鬼退治させるため、食事に魔法を仕込んで育てたのでしょう。極めつけが、きびだんごということです」

「鬼退治は、桃太郎さんの意思ではなかったと?」

「操られていたのですよ、二人に」

「知りたくなかった真実ですよ。いや、真実じゃなくて愉快な想像なんですけど」

「おそろしい物語だ」

「ぼくはきみの想像力がおそろしいですよ」

「これできびだんごがおいしくなかったら絶対に許さない」

「魔法が仕込まれている時点で怒ってくださいね」

「私、後天的な魔法を使える人なので、対抗できる気がしません」

「いざとなったらぶん殴っていいですか?」

「平手打ちで正気に戻すのですね。いいですよ」

「なに言ってんですか。犯人をぎったんぎったんにするんですよ」

「なんで私に許可取ったんですか」

「勇者さんに『おっけー』と言われたらぼくは何でもできる気がするのです」

「なんでもしていい免罪符を手に入れた、の間違いではありませんか?」

「勇者さんのためならパンチの一発や千発」

「一気に増えましたね」

「適切な力でお腹を殴ることで、きびだんごを吐き出させることもできます」

「想像したらとても嫌だ」

「人命救助なので許してほしいです」

「まあ、それはそうなのですが」

「ぼくとしては、魔法道具という概念は不要だと思うのですよ」

「便利だと思いますけど」

「便利以上に悪用された時の被害が大きいのですよ」

「なんで私を見るのですか」

「技術、知識、精神、すべてが魔法使いより劣っている勇者さんにとって毒でしかない」

「めちゃくちゃけなされている?」

「使うにも大変でしょうし、誤った使い方で危険な目に遭ったらどうするのです」

「魔法道具を使う予定はありませんよ」

「他人に使われたらどうするんですか」

「物理で戦います」

「なにゆえぼくが棄てたきびだんごを……?」

「魔法道具には魔法道具で。これがほんとうの魔法対決です」

「きびだんごをどうするおつもりですか」

「顔面にぶん投げると見せかけ、口に投げつけます」

「まさか、勇者さん」

「私のしもべとなれ」

お読みいただきありがとうございました。

魔法道具には可能性がいっぱい。


勇者「中身はあんこでしょうか?」

魔王「食べちゃだめですよ」

勇者「甘さはどれくらいかな」

魔王「食べちゃだめですってば」

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