513.会話 世界の半分の話
本日もこんばんは。
ファンタジーワールドでよく聞くあのセリフについてのお話です。
「物語の中で、悪役が主人公を引き込もうとして『世界の半分をくれてやる』と言う場面が出てくることがあるのですが、ひとつよろしいでしょうか?」
「いくらでもどうぞ」
「世界の半分をもらってどうするんですか?」
「難しい議題ですね」
「ほしい?」
「なんて純粋な瞳。勇者さんはほしいですか?」
「いらないです」
「理由をお訊きしても?」
「だって、もらってもどうしようもないですし、管理なんてできません」
「もっともですね」
「世界の半分がどれくらいなのかもわかりませんし、手に余ります」
「うんうん」
「どうせくれるのなら、全部よこせ」
「おっ?」
「けちくさいこと言ってんじゃないですよ」
「流れが変わりましたね」
「こちとら勇者ですよ。味方にしたかったらまずは態度で示していただかなくては」
「では『世界のすべてをくれてやる』と言われたら、勇者さんは敵側につくのですか?」
「嫌ですけど」
「ご自分に素直に生きていらっしゃって、とてもいいと思います」
「世界とかいらない」
「それでこそ勇者さん」
「破壊してもいいならちょっと考えます」
「それでこそ勇者さんなんですけど、そこは考え直してほしい気もします」
「こんな世界はいらない」
「きみの場合はそのセリフの意味が少し違うというか」
「いつまで経っても魔王さんがちゃんと壊さないから」
「なんでぼくが怒られているのでしょうか」
「魔王さんが魔王っぽくないから、どこの馬の骨かもわからないキャラに『世界の半分をくれてやる』と言われてしまうのですよ」
「いやそれ、小説の中のセリフですし……」
「このキャラ、どこから出てきたんだろう」
「先ほどから読んでいたのでは?」
「それが、前振りもなく登場して、高圧的にセリフを言って、主人公たちから困惑されているところです。『誰あれ?』、『知らない。どこから出てきた?』と言われています」
「よくある噛ませ犬的な立ち位置なのではないでしょうか」
「……少し読み進めたところ、近くに住むおじさんだそうです」
「近くに住むおじさん」
「全然重要そうじゃないです」
「何のために登場したんですかね」
「私に言っています?」
「きみは世界にとってもぼくにとっても最重要キャラクターですけど⁉」
「なんで私が怒られているのでしょうか」
「きみがおかしなこと言うからです! ぷんすか!」
「主人公たちに正論を言われ、しゅんとしてしまったみたいです」
「おじさん、弱い……」
「『世界は誰のものでもないですよ』ですって。私たちの世界には当てはまりませんね」
「なぜです?」
「魔王さんがいるからです」
「ぼ、ぼくのことを何だと思っているのですかぁ……」
「魔王ですよね。世界を蹂躙してくださいよ」
「ぼくだって世界の半分も全部もいらないですけど、どちらかと言えば全部ほしいです」
「おや、その心は?」
「すべてぼくのものなら、すべてを思うがままにすることができます」
「おお、魔王っぽいですね」
「つまり、ぜーんぶ守れる」
「はいダメ。セリフが勇者っぽい」
「ダメ出しされちゃった」
「ご自分の立場を思い出してください」
「そっくりそのまま、きみにお返ししますね」
「三千歩譲って、半分を勇者のものにしたとしましょう」
「相変わらず譲る歩数が多い」
「もう半分は魔王さんにお渡しします」
「おや、よいのですか?」
「いざとなったら、全部の責任を魔王さんになすりつけられる」
「だめです。セリフが魔王っぽいですよ」
「じゃあ、全部魔王さんにあげます」
「仕方ありません。それでいいでしょう。……あれれ?」
「これがミスリードです」
お読みいただきありがとうございました。
世界の半分を手に入れて、売り払ったらいくらになるのでしょうか。
魔王「勇者さんに嵌められました」
勇者「嵌められた魔王さんが悪いです」
魔王「ぼくだって世界なんていりませんよう」
勇者「セリフひとつひとつが魔王っぽくないんだよなぁ」




