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510.会話 百物語の話

本日もこんばんは。

今日は怪談の日ということで、暑い夏にぴったりのこわい話――の予定でしたが、いつものコメディです。

「今夜は新月。本日のお宿は三部屋あります。青い着物――はないので青いブランケットを用意し、鏡と文机も準備よし。そして、火のついた百本のロウソク……!」

「カチッ」

「あ、電気つけちゃだめですよう。暗い部屋であることが大切なんですから」

「一体なにごとですか。いくら聖女の祈りができないからといって、魔族スタイルの祈りがここまでおどろおどろしいとは思いませんでした。あとロウソクがもったいないです」

「これは百物語の準備ですよ」

「百物語?」

「詳細は省きますが、物語をひとつ語るごとにロウソクの火を消していくのです。そして、百話語ってしまうと怪異が起こるとされているのですよ」

「……おばけの話ですか?」

「おばけの話です!」

「絶対却下」

「まあまあ、話は最後まで聞いてくださいな。怪異が起こるのは百話目です。九十九話で止めれば、こわいことは起こらないはずですよ」

「はず?」

「ぼくもやったことがないもので」

「だとしても、嫌です」

「だいじょうぶですよ。そもそも、百物語は三人以上でやるものです。前提から破綻しているので、ただの物語を語る会でしかありません」

「つまり、雰囲気だけ作ったということですか」

「はい。ロウソクの数も途中からわからなくなったので、多分七十本くらいです」

「雑だな」

「火をつけるのもめんどうで、半分くらいはLEDライトです」

「近代的」

「ロウソクがすべて消えたとしても、青行燈は出てこないと思います」

「あおあんどん……?」

「百物語の最後に出てくるとされる妖怪ですよ」

「なるほど。そういうひとがいるのですね」

「ぼく、百物語はやったことありませんが、青行燈に会ったことはあります」

「また魔族なんですか」

「物語が大好きな文系魔族です」

「理系魔族もいるのかなぁ。いやだなぁ」

「一説では、青行燈は黒髪に角、白い服の女とされているのですが」

「角って、めちゃくちゃ魔族じゃないですか」

「リボンが若干角のように見える勇者さんも特徴が一致しています」

「私は白い服ではありません」

「ベッドのシーツを被っている時とか」

「あの時だけ青行燈勇者ということで」

「ともあれ、ひとが話す物語を暗闇の隅で喜んで聴く無害な魔族ですよ」

「その一文で強いと思う方が難しいです」

「百話目で出てくるのは、もっと語ってほしくて飛び出しちゃうのだそうです」

「おちゃめ?」

「新月の夜。暗い部屋。三部屋以上の建物。青行燈は恥ずかしがり屋で姿を見せたくないタイプなので、百物語のシチュエーションは最高らしいです」

「よかったですね、としか」

「語ることで現れ、現れることで語られる妖怪、それが青行燈です」

「ただ物語が好きなシャイ魔族ですよね」

「百物語の気配を察知すると、知らぬ間に部屋の隅にいることで有名ですが」

「もうそれが怪談ですよ」

「ぼくたちの百物語は正しいやり方でないので、今日はいないようですね」

「いたらこわいですって」

「さて、ぼくたちはシチュエーションが違うだけのいつものおしゃべりをしましょう」

「雰囲気はありますね」

「半分くらいは本物の火ですから、勇者さんはLEDライトエリアに座ってください」

「LEDライトエリア」

「和菓子もご用意しました」

「もぐもぐ」

「抹茶もありますよ」

「ごっくん」

「百物語に則り、交代でお話してもよいですが、どうしますか?」

「和菓子を食べるので、魔王さんがひとりで話していてください」

「では、勇者さんはテキトーに相槌を打っていてください」

「うい」

「これは、ぼくが若かった時の話です」

「えっ、こわい」

「まだ何も言っていませんよ?」

「魔王さんの若者時代というだけで恐怖です」

「いやですねぇ。ぴちぴちのぼくが見られるんですよ?」

「死語もこわい」

お読みいただきありがとうございました。

そもそも怪談百個も思いつきません。


勇者「ていうか、ロウソク百本つけるのがめんどうですよね」

魔王「勇者さんは物語が始まりませんね」

勇者「この物語を終わらせる」

魔王「あ、ロウソク消した」

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