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509.会話 追いかけっこの話

本日もこんばんは。

追いかけっこなんて懐かしい響きだと思います。最近はもう、疲れちゃって、全然動けなくてぇ……な天目です。

「勇者さん、なにも逃げなくたっていいじゃないですか」

「嫌ですよ。だって、勇者像を作りたいからモデルになってくれなんて」

「村人のご厚意ですよ」

「モデルにされるのは例のごとく魔王さんだとしても、待つのは私です。嫌です」

「お菓子作ってあげますから」

「嫌です。一時間とかで終わる仕事ではありません」

「ぼくとしては、勇者さんと一緒に像にしてほしいのですが」

「勇者様の隣に魔族がいるって騒がれる未来が見える」

「共存の過去をでっちあげましょう」

「さすが、オールウェイズ詐欺の魔王さんは言うことが違いますね」

「ミソラさんも一緒ですよ」

「揺らいじゃう」

「像なのでふわふわ感はありませんけど」

「やっぱりなしで」

「まあまあ、謝礼もいただけるそうですし」

「いくらでしたっけ」

「金貨三枚」

「多すぎません? ちょっと怪しいですよ」

「ですが、それだけ熱意があるとも考えられます」

「でしょうね。像を作りたい村人たちから追いかけられ、はや二時間です」

「その時間を大人しく待っていたら終わっていたのではないでしょうか」

「圧がこわくて」

「勇者さんもびっくりの連携プレーで捕まえようとしてきましたもんね」

「ほんとうに村人か……?」

「まあ、勇者さんに連携プレーの経験なんて皆無でしょうけど」

「そこ、黙らっしゃい」

「おそらく、力のない村人たちが協力して村を守ってきた表れでしょう」

「だからって、こんなに追いかけまわさなくても」

「勇者さんが逃げるからですよね」

「像のモデルになってほしいだけなのは理解していますが……」

「何か他に問題が?」

「『勇者様を生け捕りにしろ!』と言われて逃げ出さない勇者はいないかと」

「気持ちが高ぶって言葉を間違えたようですね」

「人肉村かと思いました」

「勇者さんったら、すぐホラー映画にするんですから」

「今回ばかりは村人の語彙チョイスが悪いですよ」

「脱兎の如く逃げ出した勇者さんの速さは必見です」

「や、やかましいですね。魔王さんだって一緒に逃げたじゃないですか」

「勇者さんがいるところにぼくはいます」

「若干、ホラー映画っぽい言い回し」

「どこへでもついていきますよ」

「ホラー映画のキャッチコピー縛りですか?」

「どこへ逃げても追いかけられる力を持っていたりいなかったりします」

「弱そう」

「病める時も健やかなる時も一緒にいたいです」

「一気に恋愛映画」

「というわけで、ぼくだけモデルになるのはお断りです。勇者さんとともに」

「無理やり繋げないでください。大人しくポーズを取るのが辛いだけですよね」

「ただ立っているだけでも足腰にくるんですよ」

「お年寄りなので座らせてくださいと言えばいいのです」

「祈りの瞬間を切り取りたいとのことで、座るのは却下されました」

「祈りは立って行われるのですか?」

「いえ、祈れば祈りです」

「これだから信心深いだけで知識のない人間は」

「そもそも、勇者と聖女は違う存在なんですけどね」

「どっちつかずの見た目をしているからです」

「というかぼく、勇者でも聖女でもないんですけどね」

「まさか魔王だとは思わないでしょうね」

「試しに正体をばらしたこともあるのですが、信じない率百パーセントでした」

「詐欺師もびっくり」

「このまま次の町に行くのもよいですが、ぼくは先ほどの村で物資の調達がしたいです」

「ええー……、戻るんですか」

「お昼ごはんもまだですし」

「お腹はすきましたけど、戻ったら捕まりますよ」

「三食付きと言っていましたよ。しかも宿代も出る」

「三食出すくらい長時間拘束されるってことですか。絶対嫌です。逃げますよ」

「勇者さんの願いを叶えたいところですが、もう手遅れです」

「なにゆえ?」

「ぼくたちの背後に村人が」

「ひぃ」

お読みいただきありがとうございました。

夏ですので、若干のホラー映画感を。


勇者「まだ心臓がどきどきしています」

魔王「捕まっちゃいましたねぇ」

勇者「普通に捕まえてほしい」

魔王「網を使われましたもんねぇ」

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