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503.物語 Missテリアスのミステリアスな一日 ①ミステリアスの一日の始まり

本日もこんばんは。

お久しぶりの物語パートです。ぜひぜひお楽しみください。


『Missテリアスのミステリアスな一日』は全6部構成です。

短めなのでさくっとどうぞ。

 太陽が昇る頃、ゆらりと動いた靄が形を変え、ひとりの少女の姿を創っていきます。滑らかな白い肌、クリームのように甘い色の髪、象徴たる赤い瞳。少女は誰もいない部屋をランウェイのごとく歩き、自己を確立するための服を手に取りました。性能を重視するだけではないエプロンドレスには、可憐なフリルがついています。しわ一つ許さず、汚れなんて万が一にもあってはならない。すべてはあの方のお隣に立つため。清く正しく傲慢に、己の姿に自信を持つのです。

 カーテンを開け、光を取り込んでいく朝の時間。

 わたくしの一日は魔王城の掃除から始まります。窓を開け、新鮮な空気を城に取り込むと、ほうきを持ってひたすら埃を除去するのです。調度品のズレは許しません。すべて完璧に美しく在るように手を加えていきます。本当は触れるのもおこがましいことですが、主たるあの御方が不在である今、偉大なる魔王城を美しく存在させられるのはわたくしだけ。この仕事に誇りを抱き、今日も清く正しく行動するのです。ほうきが当たり、謎の高級そうな壺が割れたのは、そうですね、まあ、そういうこともあるかと思います。魔王様にはしっかりと謝罪しますので、ご心配なく。

 次は雑巾で階段の手すりなどを拭いていきましょう。光が反射し、きらりと輝くまでピカピカにしてまいります。なんですか? 肘が当たって水の入ったバケツが倒れた、ですか? そうですね、まあ、そういうこともあります。日常茶飯事というものです。

 次は、魔王様のお部屋のお掃除――といきたいところですが、絶対に入れないよう結界が張られているので、こちらは飛ばします。本当はめちゃくちゃ入りたいですし、ありとあらゆるものを見たいですし、触りたいですし、匂いを嗅ぎたいのですが、入れないので諦めます。

「……なーんて、わたくしが諦めると思いましたの?」

 魔王様のお部屋の扉にへばりつ――もとい、扉に傷や汚れがないかを確認します。だいじょうぶですね。では、セキュリティのチェックをしましょう。

「いざ、参ります」

 己の魔力をこめ、扉に向けて放ちました。人間ならば失明するほどのまばゆい光が弾け、扉を破壊すべく爆発しました。ひとつに結った髪が風で荒く揺れるのもそのままに、わたくしは高揚する心に手を当てて時を待ちました。

 空間に充満した煙が開けた窓から去っていき、難攻不落の扉が姿を現します。

「……はあ、やっぱりだめですわね」

 ため息をつきながら、一応確認のために近寄ります。傷、ありません。汚れ、ありません。開く気配、まったくありません。

「…………」

 わたくしの体が震えます。あまりの感情に思考が追い付かず、ぼろぼろと涙がこぼれました。扉の前にひれ伏し、両手を固く握りしめました。

「……さすが、わたくしの魔王様ですわ~~~‼」

 毎朝こうして、一時間は泣きながら魔王様への愛を叫ぶのが日課でございます。

 さて、気を取り直して、掃除が一通り終わりましたら、次は食事の支度です。魔族は本来、食事の必要はありません。しかし、娯楽として美味なものを味わうのは高貴な御方に必要なこと。魔なるものの頂点たる魔王様は、世界で一番おいしいものを食べる権利があると思いませんか?

「今日はフカヒレスープとマツタケご飯、ウニといくらの盛り合わせに、メインディッシュは魔界産超高級牛のステーキですわ」

 魔王様がいつ帰って来てもだいじょうぶなよう、食事の支度は必ず行います。

「まず、マツタケを切って」

 包丁が天井に刺さりました。なぜでしょう。

「では、お米を研いで」

 お米が一粒残らず散りました。なぜでしょう。

「ウニといくらをきれいに盛り合わせて」

 なんだかぐちゃぐちゃになりました。なぜでしょう。

「お肉を焼いて」

 真っ黒こげですわ。なぜでしょう。

「完成……ということで」

 わたくしは目の前の惨状から視線を外し、失笑しました。おっと、いけません。魔王様へはすてきな笑顔で対応しなくては。鏡の前で練習しているのです。

「少し休憩といたしましょう」

 わたくしはテキトーなコップに水を入れ、一息で飲み干すと、自室へと戻りました。

魔王様に隠れて作らせていただいた一室には、わたくしの愛するあの方がいらっしゃいます。

「あああああ~~ん、魔王様っ!」

 部屋の壁、天井、窓、机、いたるところに魔王様がいらっしゃいます。詳しくいうと、魔王様の写真や絵やあれやそれやが貼ってあります。床にはありません。当然のことです。魔王様をわたくしが踏むなど、おこがましさの極み。万死に値します。

 隠し撮りした魔王様の写真に頬ずりし、あの絹のごとき細く柔らかな白き髪と宝石のように美しい青の瞳に思いを馳せました。痺れるほど清らかで透明な声でわたくしを呼んでほしい……。

 もし、あの瞳がわたくしだけを映してくれたら……。

 もし、あの声がわたくしだけに向けられたら……。

 もし、あの御方のすべてがわたくしだけのものになったら……。

「ふふ……、うふふっ…………、なんてすばらしいことでしょう……!」

 名前をつける暇もない感情で体ががたがたと震えます。喜びに打たれるわたくしは、ふと、黒いどろどろとしたものが湧き上がってくるのを感じました。

 そうですわ。魔王様への想いを邪魔するやつがいる。あの方が魔王城に帰ってこなくなったのも、人間に時間を使うようになったのも、全部、あいつのせいなのです。

「……おのれ勇者。絶対に許しませんわ」

 わたくしは勇者への怒りを露わにします。魔王様のお傍に相応しいのはこのわたくし。勇者など所詮はただの人間。わたくしの力にかかれば、一瞬で殺せるでしょう。

 そろそろ、どちらがあの方に相応しいか決めるべきですわね。

わたくしは自作の魔王様ぬいぐるみを抱きしめました。

「待っていてくださいませ、魔王様。このテリアス、あなた様のために――」

 愛しいあの方そっくりのぬいぐるみに、そっと口づけを。

「必ずや、勇者を殺してみせますわ……!」

お読みいただきありがとうございました。

またキャラの濃いひとが出てきましたね。

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