502.会話 アイマスクの話
本日もこんばんは。
変なプリントのアイマスクが好きです。
「勇者さん、見て見て~」
「うわ、不吉」
「赤目アイマスクです。夏の新作ですよ」
「なんでもかんでも新作って言っときゃいいと思ってませんか」
「新しいものは買う人がいなくては話題にならないのですよ」
「赤目アイマスクは企画段階から売る気がないと思うのですが」
「ぼくみたいなひとが買うのでしょうねぇ」
「実際にそうですねぇ」
「売れ残り大セール中でした」
「夏の新作なのに」
「去年の夏ですよ」
「まあ、嘘は言っていませんからね」
「使う用と保存用とプレゼント用に三つ買いました」
「プレゼントされて喜ぶひとが思い浮かびませんけれど」
「かぐやさんです」
「あのひと、元から赤目ですよね」
「じんわり温めるタイプですから、作家さんには必要かと」
「充血していると思われていますからね」
「もちろん、勇者さんにも買おうと思ったのですが」
「ありがとうございます。要りません」
「そう言うと思い、うさぎさんアイマスクを買ってきました」
「つぶらな瞳」
「耳付きですよ」
「どこから耳生えてんだ」
「目の上ですね。構造上、こうなるしか道がなかったのでしょう」
「かわいいからいいか。アイマスクということは、使い方はこうですか?」
「はい、違います」
「耳に配慮した結果なのですが」
「それだとヘアバンドですね。アイマスクなので目に当ててください」
「耳への配慮はいいのですか?」
「企画段階からなかったと思うので、もう諦めましょう」
「もしや、うさぎさんへの愛が足りないひとが開発しましたね?」
「そこまではわかりませんけど」
「でも、すごくふわふわです。許してやってもいいでしょう」
「上から勇者さん」
「ところで、赤目アイマスクがあるということは、青目アイマスクもあるのでは?」
「ありましたよ。売り切れでしたけど」
「そりゃ、赤目と一緒に売ればそうなります」
「今年の夏の新作として、青色が八色になっていました」
「グラデーション」
「ぼくの目と同じ色もありましたよ」
「青色も、まさか魔王と同じだとは夢にも思わないでしょうね」
「『これできみも魔王!』というキャッチコピ―はどうでしょう?」
「魔族は赤目。はい、復唱」
「ぼくは青い目!」
「元気があってよろしい。魔族から殴られてください」
「勇者さん以外の赤目はきらいです」
「アイマスクはいいのですか?」
「勇者さんの目とゼロ距離の妄想ができますから」
「正しい用途で使ってください」
「勇者さんったら、近いですよう! きゃー!」
「ひとついいですか?」
「冷静ですね。どうぞ」
「アイマスクの印刷は目に触れない側にあります。となると、魔王さんは赤目プリントとゼロ距離でいるのではなく、同じ方向を見ている解釈になりませんか?」
「たしかに」
「あなたの妄想のためには、アイマスクを逆向きで使う必要があります」
「的確なアドバイス」
「まあ、ふわふわはしていませんけど」
「そういうわけで!」
「どういうわけですか」
「ゼロ距離で勇者さんがぼくを見つめてくれれば解決ということですね!」
「もちろん嫌ですけど」
「ふっふっふ……。そう言うと思いまして、じゃーん! 青目アイマスク~」
「あれ、さっき売り切れって言っていませんでした?」
「ぼくが膝をついて落胆していたら、在庫から一つだけ掘り出してくれました」
「なにやってんですか魔王のくせに」
「赤目アイマスクと青目アイマスクをゼロ距離にすれば……!」
「それ、やっていて切なくないですか?」
「めっちゃ虚無ですよ」
お読みいただきありがとうございました。
赤目アイマスクは魔族コスプレに使えます。
魔王「虚無の極み」
勇者「やめたらいいじゃないですか」
魔王「この胸の痛みも愛おしいです」
勇者「そっとしておこう」