500.会話 ハッピーエンドの話
本日もこんばんは。
なんだか最終回のようなサブタイですが、全然終わらないので気にせずお読みください。
「ぼくはハッピーエンドが好きなのです」
「料理しながらの会話は危ないですよ」
「もう慣れているので平気です。ぼくはね、勇者さん。ハッピーエンドが好きなのです」
「そうですか」
「ハピエン厨です」
「自分で言いますか」
「悲しいお話は見たくも聞きたくもありませんが、世の中うまくはいきません」
「そもそも、魔王さんは魔王ですから」
「やだぁぁぁぁぁぁぁぁ世界がはっぴーになること以外認めませんからぁぁぁぁぁぁ」
「世界規模のわがままは魔王っぽいですけど」
「なんで魔族なんか存在するんですかね⁉ いらなくない? 不要! 不要!」
「デモ?」
「一度、世界をきれいに洗い流したいです。もちろん、人間はどこかに避難させますよ」
「ノアの箱舟?」
「でも魔族ってしぶといからなぁ……。そういうところがきらいです」
「包丁を持ちながら言うと雰囲気ありますね」
「このトマトのように、きれいに首が斬れたらいいのですが」
「今日のご飯はなんですか?」
「トマトそうめんです。冷たくてあっさりしていますよ」
「おいしそう」
「そんなわけで、ぼくは魔王として魔なるものを滅したいのです」
「まだ続いてた」
「どうにかならないですかねぇ」
「まず、魔王として魔なるものを滅するのがおかしいのですよ」
「勇者さんの使命はおひとりでは荷が重いので、ぼくもお手伝いしようかと」
「そうですか」
「勇者さんはどうですか? ハッピーエンド、ご所望ですよね?」
「圧を感じます。ご所望というより、ハッピーエンドの定義がいまいちで」
「めでたし、めでたしのことですよ」
「終わり良ければすべて良し?」
「そうとも言えます。ですが、ぼくは結末だけでなく過程もはっぴーがいいのです」
「わがままだ」
「最後さえ良ければいいというのは、ぼくは納得できないのですよ」
「シリアスをぶち壊すタイプのおひとですもんね」
「壊せるものなら壊したい。今後もこぶしで破壊していこうと思います」
「魔王さんはシリアス向いていないと思います」
「うれしいです。もっと言ってください」
「聖なる微笑みを浮かべながら破壊した壁から登場しそうです」
「お望みならば」
「もしやったら、私は知らないひとのフリをしますからね」
「すてきな笑顔で勇者さんに手を振りますね」
「やめんかい」
「始まりから終わりまで、ずっと幸せな物語がいいと思いませんか?」
「それはそれで、見ている側からするとつまらないかもしれませんね」
「いいじゃないですか。物語は幾千、幾万とあるのです。そのうちの一つが、ただずっと幸せなものでも怒られないと思いますよ」
「そうですか。まあ、私たちには縁のない話ですけれど」
「今日の夕飯がハンバーグで、明日がカレーで、明後日がお寿司」
「いやぁ、幸せな物語というものも必要ですよね。いいスパイス的な位置づけになると思うのです。一周回って話題になるかもですし、それを求めるひともいるでしょう」
「ぼくは、ほのぼの癒し系の頂点を目指したいです」
「さすがに諦めてください」
「諦めないこと、それが一番なのです」
「負けないことや投げ出さないことは?」
「それも大事ですね」
「でも、どうにもならないことというのはあると思いますよ」
「ぼくもそう思います」
「終わりさえよければいいと言っても、やはり過程も重要かと」
「ぼくもそう思います」
「原形を失ったトマトと、吹き出したおそうめんが救われる結末はありますか?」
「……た……ぶん」
「ハピエン厨なのでしょう。諦めないでください」
「ぼくの希望を打ち砕くバドエンの気配がします。強敵ですよ」
「しゃべりながら料理をしたからではないでしょうか」
「簡単な料理だと油断しました。加減を間違えたようです」
「時間を戻せない以上、今日はバッドエンドですね」
「いやです! 絶対にハッピーエンドにしてみせます!」
「ここからの巻き返しは無理ですよ」
「ト、トマトスープにします。ふにゃふにゃおそうめんは歯に配慮した結果です」
「ご都合にも限界はありますよ」
お読みいただきありがとうございました。
500話までには多少物語が進んでいるつもりだったのですが、ご覧の有様です。今後もお付き合いくださいませ。
勇者「ふにゃふにゃも好きですよ」
魔王「勇者さんってば~~!」
勇者「自分が強くなった気になれる」
魔王「独特な意見」