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50.会話 眠れぬ夜の話

本日もこんばんは。

眠れぬ夜のちょっとしたお話です。眠る前にお読みください。

「おや、珍しいですね。勇者さんがまだ起きているなんて。いつもはベッドに入ると数秒で夢の世界に行くというのに」

「……あの、当たり前のように私のベッドに潜り込むのやめてもらっていいですか」

「今日はちょっと冷えるそうなので、風邪を引かないように配慮した結果ですよ」

「布団を増やせばいい話では」

「残念ながら、お布団は二人分だけです」

「魔王さんがここにいるなら、もう一人分が余っているはずですが」

「さっきジュースをこぼしちゃいまして」

「それが本音ですね」

「ですが、ふたりでくっついた方が温かいでしょう?」

「邪魔です」

「無慈悲っ。寒いと寝付くのも悪くなります。現に勇者さんが起きていましたし」

「…………それは」

「お布団が温まるまで、ちょっとおしゃべりしましょうか」

「勝手にどうぞ。私は反対を向いているのでお好きにしてください」

「ええん……。勇者さんのお顔を見せてくださいよう。……むう、いいですよ。そうですねぇ、なにを話しましょうか。明日なにをしようとか、どこへ行こうとか、なにを食べようとか、些細ですが大切な話ですよね」

「決められた未来は好きではありません」

「そんな大層なものじゃありませんよ。これは縛りの話ではなく、希望の話です」

「明日、サンドイッチを食べようと思うことが希望になるんですか」

「その通りです。おいしいものを食べようという気持ちだけで、明日が楽しみになりませんか?」

「……どうでしょうね」

「ねえ、勇者さん。ぼく、こうして勇者さんと旅をするようになってから、夜の時間も好きになったんですよ。今日あったことを思い返して、ベッドの中で明日のことを考えながら眠りにつくんです。楽しかったなぁ、楽しみだなぁと思っていると、いつの間にか眠っている。気が付いたら朝で、勇者さんに起きろーっと揺さぶられるんです」

「全然起きませんよね」

「夢と現の間で勇者さんの声を聴いているまどろみが好きなんです。きみの声で始まる一日ほど素敵な日はありません」

「毎日じゃないですか、それ」

「えへへ。それなら、毎日が素敵な日だということです」

「調子の良いことを言いますね」

「今日は月も見えない夜ですが、その分朝日を眩しく感じられるのではないでしょうか」

「どういう理屈です……」

「そうだ、今から星を見に行きましょう。夜更かしして、たくさんはしゃいで疲れた眠り、朝日で目を覚ますのも楽しいと思いませんか?」

「今日は冷えるんじゃなかったんですか」

「だいじょうぶです。たとえ寒くても、ふたりでくっついていたら温かいですよ。ほら、お布団もぬくぬくしてきましたし」

「…………ぬくぬくしてきたのに、外に行くんですか」

「眠れないのなら眠らなければいいのです。いつもよりちょっとだけ長い夜の日があってもいいでしょう?」

「やけに楽しそうに言いますね。……うわ、いい笑顔」

「どうですか、勇者さん。ぼくと星を見に行きませんか?」

「夜更かししていつも以上に朝起きられなかったら揺さぶるだけじゃ済みませんよ」

「がんばります。それでは、外へれっつご~」

「……うっ、夜風が冷たい」

「では、くっつきましょう。あったかくなりますよ」

「……魔王さんの熱をすべて奪い取る気持ちで大人しくしてあげましょう」

「素直じゃないですねぇ……。あ、この辺がいいいですね。辺りに明かりもなく、静かです。勇者さん、上を見てみてください」

「…………星」

「圧巻ですね! 夜更かしした人の特権ですよ!」

「暗いし寒いしお腹はすいてきたし布団もない。不満です」

「文句ばっかりですねぇ」

「けど、きれいです」

「……えへへ。でしょう? 眠りについた世界で、眠らない者だけが見られる景色です。背徳感がある気がしませんか?」

「魔王さんは魔王なんですから、悪いことをするのは当然でしょう」

「わるーい魔王にそそのかされ、深夜に抜け出し星を見る勇者さんの気持ちが知りたいです」

「……ふふっ、いやなことを訊きますね」

「魔王ですから」

「これはひとりごとなんですけど、わるーい魔王さんがあんまりくっつくからあなたにも聞こえてしまうかもしれません」

「では、目を閉じていますね」

「――ありがとうございます、魔王さん」

「……えへへ。これはぼくのひとりごとなんですけど、寒くて離れたくないのできみにも聞こえてしまうかもしれません」

「では、星を見ていますね」

「――こちらこそです、勇者さん」

「……なんだか眠くなってきました。魔王さんがくっつくからです」

「ぼくも眠くなってきました。なので、動けそうもありません」

「寒くなるという予報は外れのようですね……」

「あの予報には続きがあるんですよ。冷えた温度は次第に上がっていくという続きが」

「……ちょっと強引ですが、あったかくなったのは合っていますね。その予報をした人は未来が見えていたのでしょうか……」

「いいえ、望んだ未来になるよう願ったのですよ」

「……願った、ですか」

「はい、一面の星々に」

「……どうやら、叶ったようですね……」

「ええ、叶いましたね」

「流れ星じゃなくても……叶うんですね……」

「大切なのは想いの強さなんでしょう」

「……それなら、願った人は……、すごく強く願ったんでしょうね……」

「それと、明日が良き日であることも願ったそうですよ」

「良き……日。なら、きっと…………」

「勇者さん? おや、眠ってしまったようですね。風邪を引かないように宿に運ぶとして……、その前に、もうひとつ星々にお願いしておきましょう。えー、こほん。『勇者さんがやさしい夢を見られますように』」

お読みいただきありがとうございました。

たまにはこういう話も書いていきたい……と思う天目です。

それではみなさま、よい夢を。


勇者「気象予報士にはボーナスをあげましょう」

魔王「勇者さんがご機嫌!」

勇者「ふたつに割るアイスの半分を贈呈します」

魔王「な、なんと素晴らしい! 素晴ら……しい?」

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