499.会話 自分史の話
本日もこんばんは。
今日は自分史の日ということで、自分史についてのSSを。
「そんな日もあるの?」と思ったそこのあなた。私もそう思います。
「魔王さん、先ほどから何を書いているのですか?」
「気になりますか? 気になりますか?」
「いえ、別に。机の上とか下とか横とか斜めとかに紙が散乱していて邪魔なので」
「自分史を書くのに紙の束が必要になりましてね。それが散らばっているのでしょう」
「でしょう、じゃないんですよ。片づけてください」
「自分史を書くのに忙しくて」
「その自分史というのは何ですか? 黒歴史?」
「ぼくの場合は似たようなものですね。って、違いますよ。自分史というのは、その名の通り自分のこれまでの人生を振り返り、時系列に整理したものです」
「何が楽しいのやら」
「勇者さんにぼくのことをもっと知ってもらい、仲を深めようと思いまして!」
「たいしたこと書いていなさそう」
「辛辣ですね」
「これが最初のページですか。読んでも?」
「もちろんです」
「『ぼくのはじまり。闇』…………。もう結構です」
「なぜですか。ありのままを書きましたよ!」
「思ったより闇深そうなので遠慮しておきます」
「ぼくの隅から隅まで知ってくださってもいいのですよ?」
「たぶん知らない方がいいことが九割かと」
「年齢制限ギリギリまで公開しちゃいますよ?」
「それはえげつなさという点の年齢制限ですか」
「ぼくの秘密やあれやそれやをトクベツにどーんっと!」
「全部モザイクかかっていそう」
「たしかに、最初の方はもやもやしていましたけど」
「魔王さんが綴った自分史から禍々しいオーラが出てきそうですね」
「使っているのはただの紙ですよ?」
「抑えきれない闇。見てください、この一ページ。暗黒で読めません」
「それはインクをこぼしただけです」
「爪でひっかいたような荒々しい文字」
「まだ書けるか挑戦したのですが、さすがに無理でした」
「破れて空白になった歴史」
「別の紙に書き直しましたよ」
「誰にも読まれず焚き火にくべられる運命」
「それは勇者さんのさじ加減です」
「暇つぶしくらいにはなるかな」
「せっかくですし、勇者さんも自分史を書いてみませんか?」
「書くほど生きていません」
「十数年はありますよ」
「書くほどエピソードありません」
「探せばありますって」
「箱庭時代の話ですか」
「ぼくと出会ってからでお願いします」
「短い」
「人生を全て振り返る必要はありません」
「人生を全て振り返って書くのが自分史なのでは?」
「頭に浮かんだことだけ書けばよいのです」
「それなら日記でいいじゃないですか」
「その時抱いた感情や思い出、自分を形作る物語など書くべきことはたくさんあります」
「なおさら箱庭時代は書かないといけな――」
「人生を全て振り返る必要はありません」
「二回目」
「ぼくも書いていないことの方が多いです」
「虫食いなのにこの量なんですか?」
「覚えていないことが多々ありまして」
「唯一無二のロリババアですもんね」
「それでも今日のぼくがいることが、これまでの証明なのです」
「最終回で聞きそうなセリフ」
「『ぼくのはじまり。闇』から勇者さんとの旅がぼくの自分史なのですよ」
「その文言と並べられたくないよう……」
「振り返ることで新たな発見があるかと思いました」
「どうでしたか?」
「勇者さんまじなんばーわんのおんりーわん!」
「いらん発見をしたものですね」
「勇者さんと出会った時に抱いた感情やらなんやらを綴り、紙がこんなことに」
「ちょっと待ってください。魔王さんの歴史を書いて長くなったのでは?」
「いえ、勇者さんへの想いを書き綴って長くなったのです」
「じゃあ、魔王さんの自分史は」
「五枚くらいですね」
「さすがに記憶喪失すぎる」
お読みいただきありがとうございました。
ここ数年のことも忘れちゃうのに、自分史とか書けるわけない天目。
魔王「まだまだ想いが止まりません」
勇者「止まってください。書き過ぎです」
魔王「楽しくなってきました。少なくともあと百枚は書きます」
勇者「止まれ」