498.会話 バルーンの話
本日もこんばんは。
今日はバルーンの日ということで、おふたりがバルーンアートで遊ぶようです。
「勇者さん、ぼくと一緒にバルーンアートで遊びませんか?」
「商品販売のひと?」
「聖なる見た目を利用して過去最高の売り上げを目指しちゃおうかな!」
「詐欺だ」
「ですが、ぼくが媚びを売るのは勇者さんだけですよっ」
「媚びって言った」
「ぼくのきゅるんきゅるんの顔を見てくださいな」
「バルーンアートってなんですか?」
「一ミリも見てくれない。バルーンアートとは、バルーンを使ったアートのことですよ」
「説明とは」
「こちらの風船を膨らませ、ねじったり組み合わせたりして形を作るのです」
「膨らませる……」
「ボンベをお使いください」
「空気を入れ続けたらどうなりますか?」
「破裂すると思いますよ」
「つまり、これを魔王さんの口に入れたら?」
「ぼくはバルーンじゃないです」
「風船が膨らむように魔王さんも丸々と……。ただの食いしん坊かな」
「食べ過ぎは身体によくないですよ」
「この風船が一体何になるというのでしょう」
「今日は初心者向けのアートを作りましょうね。これとかこれとかそれとか」
「剣ですか。こんなもので魔物を倒せるわけないでしょうに」
「本気で戦おうとしているのは勇者さんだけ」
「冗談ですよ」
「ではないですけど」
「ではないんだ。いたんだ、他にも」
「バルーンアートの剣が武器の勇者さんもいました」
「世界は広いなぁ」
「盾や弓も矢もバルーンでした」
「申し訳ないですけど、弱そう」
「それがですね、驚くべきことにですね」
「まさか、魔王さん」
「そうなんです。めちゃくちゃ弱かったです」
「弱かったんだ。切ない」
「どうしてバルーンアートで戦おうと思ったのか、未だに不明なのです」
「世界の七不思議に認定してもいいのではないでしょうか」
「理解できないことすら愛おしいのです」
「魔王を困惑させる勇者って、ある意味では強いですね」
「そういう経緯で、ぼくはあの日、バルーンアートというものを知ったのです」
「もうちょっと穏やかで優しい知り方がよかったですね」
「困惑と衝撃は凄まじかったですよ」
「でしょうね、としか」
「遠い過去の話ですが、バルーンアートを見ると思い出します」
「思い出のひとつですね」
「はい。鮮明に感情が浮かび上がってきますよ。まじで弱かった――と」
「切ないよ」
「勇者さんは、ちゃんと本物の剣を使ってくださいね」
「頼まれてもバルーンアートの剣は使いませんから」
「そもそも、バルーンアートの剣が完成しませんね」
「せっかく膨らませたのに全部割れちゃった。魔王さんのせいで」
「すみません、あまりに脆くて。まるで人間のようですね」
「私もいつか、こんなふうに破壊されるのでしょうか。これが未来の私?」
「勇者さんはバルーンよりも花よりも豆腐よりもふわふわうさぎさんよりも丁寧に大切に優しく扱いますから絶対にそんな物騒なことにはなりませんよっ‼」
「途中で豆腐って言った?」
「おー、よしよしですよ~」
「近寄らないでください。これ以上バルーンを壊されたら何も作れません」
「大人しくします」
「ええと、こうして、こうやって、くるりと回して、こうでしょうか?」
「すごいです! 完成ですね、勇者さん」
「ぺしぺし」
「あああ静電気が」
「攻撃力というものを感じません。脳みそがなくても武器にしようとは思いませんよ」
「あの勇者さんは脳みそがなかったのでしょうか」
「おそらく」
「魔王城にあった武器を提供したのですが、断られたのですよ」
「何がしたかったのやら」
「あ、勇者さん。あまり突くと割れてしまいますよ」
「あうっ……。み、耳元で割れて音が……。いやな音……」
「この点だけは攻撃力が高いんですよね」
お読みいただきありがとうございました。
バルーンアート勇者さん。それは、自分で作ったバルーンアートに勇者の力をこめた勇者さん。とても弱い。
勇者「耳元で風船を割る攻撃」
魔王「ぼくだっていやですよう」
勇者「私も嫌です」
魔王「平和的解決ですね」