497.会話 親子丼の話
本日もこんばんは。
今日は親子丼の日なんだそうです。なんでもありすぎる。
「今日のお昼ご飯は親子丼ですよ。どうぞ、召し上がれ」
「不思議な名前ですね。親と子とは一体」
「鶏肉とたまごを使うからだと思いますよ」
「なんて非道な料理なんですか」
「え、そ、そうですかね?」
「親と子を同じ料理の中で終わらせるとは……。魔王が考えたのでしょうか」
「人間が考えたと思いますよ」
「なんてことだ」
「勇者さんも人間ですよ」
「親子丼という名前がよくないと思うのです」
「では、他にいい案があれば教えてくださいな」
「母とともに丼」
「こわい。こわいですよ」
「愛情が感じられると思いませんか?」
「恐怖を感じていますよ」
「ずっと一緒です」
「こわいですって」
「愛です、愛ですよ、魔王さん」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「やかましいですよ」
「怠惰卿の勇者さんだ……」
「弱そうですね」
「ぼくは震えが止まりませんよ」
「人間の親子は一緒にいることが一般的だそうですよ」
「『一緒にいる』の意味が違うといいますか」
「たまごに包まれてふわふわですよ」
「成れの果てじゃないですか」
「まるで埋葬のようですね」
「縁起でもない」
「人間、いつかは土の下です。棺桶かたまごの違いですよ」
「どうしてお昼ご飯からこんなに薄暗い会話がうまれるのでしょうか」
「魔王さんが親子丼を作ったからですね」
「ぼくの罪か」
「いただきます。おいしいです」
「何も気にしていないような勇者さん。そんなところも好きですよ」
「日頃から命をいただいているのに、親子丼だけ食べられないわけないでしょう」
「ごもっとも」
「それが嫌ならみんな死ぬしかないじゃない」
「極論。お味はいかがでしょうか?」
「たまごのふわとろ具合がちょうどいいです。これならよく眠れそうですよ」
「食事のことだけ考えていてください」
「魔族の中には人間を食べるものもいるとか」
「ぶっ殺――いえ、倒すべき存在ですね」
「彼らは親と子をどんぶりに乗せて食べるのでしょうか」
「いけません勇者さん年齢制限の気配がしますモザイクですよアウトですよあばばば!」
「人間界の親子丼と魔界の親子丼で勝負」
「なんの対決をするのですか」
「非人道的行為度」
「コメントしづらいのでやめてください」
「かなりいいところまでいける気がしますよ」
「意気込まなくていいです」
「ご飯を食べたので力を出せるでしょう」
「滅多に出さない力の無駄遣いです」
「どちらもタンパク質が豊富な食材です。生きるうえでは必要な栄養素ですね。ご覧ください、このみなぎるパワーを」
「……どのあたりに?」
「たぶんこのへん」
「みなぎっていますか?」
「ちょっとだけ」
「おかわりしますか?」
「もうお腹いっぱいです」
「お味噌汁もありますよ」
「あったまる」
「これだけなら、のどかな昼食風景なんですけどね」
「さて、ご飯を食べたら親子狩りをする魔族を殲滅しに行きましょうか」
「行きます行きます行きます行かせてください! もぐもぐむしゃむしゃ!」
「情報によると、親子丼を提供する魔族が近くにいるそうですよ」
「誰ですかそいつは絶対に倒しましょう許せません首を斬ってやります!」
「魔王さんです」
「ぼくか」
お読みいただきありがとうございました。
親子丼。最初に考えたひとは何を思っていたのでしょうか。
魔王「ぼくとしたことが、知らずに罪を犯していたのですね」
勇者「魔王なので当然といいますか」
魔王「でもまあ、勇者さんの健康のためにこれからも作りますよ」
勇者「魔王として当然じゃない発言」