495.会話 はちみつの話
本日もこんばんは。
はちみつって使っても使っても減らない気がします。無限に湧いているのかもしれません。
「勇者さん、それはまさか！」
「はちみつですけど」
「いけません、一歳にならないと！」
「誰が乳児ですか」
「ぼくとしたことが、気が緩んでいたようです。もっと気をつけるべきでした」
「いや、今までもはちみつは食べていますよ」
「ですが、勇者さんってば赤ちゃんすぎて！」
「誤解を招く言い方はやめてください」
「ぼくは思いました。実は、はちみつはまだ早かったのでは……と」
「早くないです。いくつだと思っているのですか」
「もうすぐ一歳かな？」
「これだから人外の感覚は」
「せめて、そのまま食べるのはやめませんか？ 紅茶や白湯に入れましょう」
「何も変わらないと思いますよ」
「ぼくの気持ちの問題です」
「世話の焼ける気持ちですね」
「手のかかる子だねぇと言いながらよしよしされたいです。そう、勇者さんに」
「嫌な強調の仕方」
「ちらちら」
「こっち見るな」
「じいっ……！」
「見つめるな」
「はちみつといえば、花の種類によって味が変わるのですよ」
「切り替えがちょっとこわいんだよな」
「用途によって種類を変えるのも楽しみのひとつかと」
「そんなに種類があるんですね」
「ぼくはりんごやみかんの花から作られたはちみつがお気に入りです」
「りんごの味がするのかなぁ」
「種類豊富、栄養満点で有名なはちみつ。ぼくもご用意いたしました」
「なにこの暗黒」
「ぼくたちの会話には度々出演する暗黒物質ですね」
「うれしくないです」
「これは、魔界に咲く花から採取したはちみつです」
「私、食べられるんですか？」
「もちろん食べられません」
「くれ騙しだ」
「純度百パーセントの毒ですよ」
「むしろ毒じゃない方が驚くので安心しました」
「魔族に売り、死滅させようと思ったのですがおいしいと評判になり売り上げは好調」
「成功しちゃったんですね」
「めんどくさくなったので、売上金だけぼくのところにくるようにして手放しました」
「魔界関連は雑なんですよね、あなた」
「その売上金で買ったおいしいはちみつがこちらです」
「わあ、きれいな黄金色」
「フレンチトーストを焼いたので、乗せて食べてくださいね」
「あれ、食べていいんですか？」
「フレンチトーストに乗せればだいじょうぶです」
「基準が謎」
「ぼくの気持ちがオーケーを出せば合格です」
「フレンチトーストに信頼を置いているのですね」
「ぼくが作りましたからね」
「創造神の余裕か」
「できれば、人間も食べられるはちみつを作りたいのですが」
「人間界で採取すればいいのでは？」
「ぼくもそう思ったんですけどねぇ……」
「何か問題が発生したようですね」
「妖精たちにことごとく邪魔をされました」
「妖精？ それはまたどうしてなのでしょう」
「女王の蜜が一番おいしいと言いたいのでしょうね」
「ああ、あの時の。おいしかったで――」
「しっ、どこで聞いているかわかりませんよ」
「言っちゃだめなんですか？」
「だって厄介なんですもん」
「魔王さんがそれを言うのですか」
「勇者さんも言えないですけどね」
「誰が厄介だ」
「めんどうで厄介で複雑で繊細な生まれたてですものね」
「生まれたてがはちみつを食べていいのですか？」
「フレンチトーストに乗せているのでだいじょうぶですよ」
「フレンチトーストへのその信頼は何？」
お読みいただきありがとうございました。
フレンチトーストに乗せるとおいしいですよね。
勇者「女王の蜜ってはちみつなんですか？」
魔王「違いますよ」
勇者「じゃあ、対抗心を燃やす必要はないと思いますが」
魔王「あれはわがままですから」
