491.会話 スイカの話
本日もこんばんは。
今日はスイカの日なんだそうです。夏ですね。
「今日のおやつはこちらですよ」
「鈍器?」
「スイカです。たしかに重量がありますけど、食べ物ですよ」
「へえ。武器にもなって食べられるなんて、すばらしいですね」
「スイカを武器にするひととは会ったことありません」
「叩いてもびくともしませんよ」
「そんなスイカを、今日はなんとですね、切っていきますよ」
「なにその言い方」
「よいしょっと。じゃーん、見てください。赤くてみずみずしいですよ」
「赤くてみずみずしい?」
「スイカだけ見ていてください」
「どうやって食べるんですか?」
「がぶっと!」
「……おいしいです。むしゃむしゃ」
「ちなみに、中に入っている黒い種なのですが」
「ふふん、知っていますよ。チョコレートなんですよね」
「ちょこれーと?」
「全部食べられることを私はもう知っています。むしゃむ……、ばり?」
「まさかほんとうに」
「口の中がじゃりじゃりします」
「勇者さんに真実を伝える時がきたようですね……」
「重苦しい雰囲気」
「勇者さん、スイカの種はチョコレートではないのです」
「な、なんですって……」
「それは、スイカの種です」
「そんなまさか……」
「はい、ぺっしてくださいね」
「う~、じゃりじゃりする」
「チョコレートだと思っていた勇者さんにはそのままでいてほしかったですが」
「むぅ」
「スイカをおいしく食べてほしいので、真実を言うしかありませんでした」
「前に食べたスイカみたいなものはチョコレートだったのに」
「それ、アイスですかね」
「アイスでした」
「アイスのスイカはチョコレート、スイカは種です」
「巧妙な罠ですね」
「大体のひとはスイカから入り、次にアイスにいくのですけど」
「まさか、魔王さんが仕掛けたんですか」
「いえ、旬ではなかっただけです」
「私は魔王さんの手のひらの上ということですね」
「アイスの方が入手しやすかっただけです」
「おのれむしゃむしゃむしゃむしゃ」
「初めて食べるスイカはおいしいものであってほしかったゆえ」
「むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむ……?」
「どうしました?」
「お腹がいっぱいです」
「水分ですからね」
「水分なのにこの重量? 妙だな……」
「出た、名探偵勇者さん」
「つまり、大量の水も鈍器になれる道があるということですね」
「水は水のまま、そっとしておいてください」
「犯行後、その辺に流せば完全犯罪ですよ」
「トリックを思いついた犯人のセリフ」
「スイカなら、食べてしまえばいい」
「この量をおひとりで?」
「無理なので魔王さんも食べてください」
「流れるように共犯者」
「これであなたも完全犯罪者」
「嫌なキャチコピーですね」
「スイカに貼って売ればいいのでは?」
「もし売り上げがよくなったら、そういうことになりますよ」
「勘のいい魔王さんはスイカの餌食になってもらおうか」
「いや、スイカに貼ってあれば勘が悪くても気づきますよ」
「んむぐっ……、また種を噛んでしまいました」
「先に取ってから食べるといいですよ」
「いちいち取るのがめんどうです」
「そんな勇者さんにお伝えしたいことがあります」
「重苦しい雰囲気」
「なんとですね、種のないスイカも存在するのです」
「な、なんですって……」
お読みいただきありがとうございました。
「思い出す スイカに負けた 包丁を」
夏のおもひで。
魔王「種のないスイカはなかなか見つからなくて」
勇者「珍しいのでしょうか」
魔王「こちらにございます」
勇者「あるんかい」