49.会話 友達の話
本日もこんばんは。
友達(?)の話です。
「『時間制限あり! お友達限定いちごのスイーツ』……ですか?」
「通りすがりの露店で見つけました。店主が宣伝していたんですが、非常においしそうです。食べねば一生の損です。スルーするなど失礼の極みです。三十個は買わなくてはいけません」
「お、落ち着いてください。話はわかりましたけど、条件がよくわかりません」
「簡単です。お友達を連れて買いに行くだけです」
「なるほど。ところで、もう一つわからないことが」
「なんでしょう」
「なぜぼくの背中を押しているんです? 勇者さんが買いに行くんじゃないんですか?」
「私に友達はいません。なので、魔王さんに頼もうかと」
「悲しいことを言わないでくださいよ。それに、あの、ぼくでよろしければお友達ということで――」
「魔王さんってご友人はいらっしゃるんですか?」
「ぼくの話、なんにも聞いてないですね。ええっと、ぼくのお友達ですか。そりゃまあ、長く生きているのでそれなりには……いる……ます」
「歯切れが悪いですね。魔王ですし、ちょっとひとり呼んでみてくださいよ」
「無理ですよう。彼らは自由奔放不羈奔放融通無碍縦横無尽なんですから」
「分かりづらい……。つまり、呼んだって応えてくれないということですか」
「そういうことです」
「舐められてんじゃないですか?」
「ぐはぁ」
「それか、人望がない。いや違うか。魔望がない」
「魔望」
「でもだいじょうぶです。魔王さんの力で傀儡のひとつやふたつ、ちょちょいと作り出してくだされば」
「え? いや、あの……」
「買うときに誰かいればいいわけでしょう? 動く人形でも騙せますよ」
「騙すって言っちゃってますね。あの、それより簡単な方法があると思うのですが……」
「簡単な方法……? その辺の人間を脅して強制的に横に侍らせるとかですか?」
「横暴ですね。違いますよ。もっともーっと簡単な方法です。ぼくがお友達に――」
「等身大の人形を作って持っていくとか……? フード被せれば騙せるか……?」
「なんでそうなるんですか。等身大人形を作る労力があるなら、ふだんからもうちょっと頑張ってくださいよう」
「スイーツのためです」
「人形を作るお金でスイーツがいくつ買えると思ってるんです」
「はあ……。そもそも条件を付けて売る方が悪いんですよ。あの旗ぶっ壊してもいいですか」
「器物損壊罪になりますよ」
「魔物でも呼んであの露店潰しませんか」
「言ってることが魔族のそれですよ」
「やれやれ、ただスイーツが食べたいだけなのに、こんなに疲れるとは思いませんでしたよ」
「ですから、最も簡単な方法がすぐそばにあると言っているではありませんか」
「すぐそば……? ああ、なるほど。私としたことが、こんな大事なことを忘れているなんて」
「そっ、そうです、そうです!」
「私には魔王さんがいたんです」
「はいっ! さあ、ぼくと一緒に――」
「魔王さんの魔法でスイーツをかっぱらってきてください」
「……はい?」
「もちろん、代金は払いますよ。店主に目に留まらぬ速さで支払い、商品をゲットすればいいんです。魔王さんの魔法なら朝飯前でしょう。いやあ、こんな簡単なことに気がつかないなんて、やはり糖分が足りていないのでしょうね」
「あの~……」
「どうしました?」
「勇者さんって……」
「はい?」
「いじわるなんですかぁ……」
「なんですか、その顔。私は勇者です。人々の幸福と安寧を守る正義の味方ですよ。いじわるなわけありません」
「その中にぼくは入っていないんですか……」
「めちゃくちゃ不満そうですけど、そもそも魔王さんは私の敵ですよね?」
「そうですけどお! そうですけどおおお! ぼくの幸せもちょっとくらい考えてくれたっていいと思うんです」
「魔王さんの幸せ……? ああ、なんだ、そんなことですか。わかっていますよ」
「ほ、ほんとですか? では、今度こそ一緒に――」
「スイーツはちゃんとふたり分買いますから」
「……あれぇ?」
「独り占めなんてしませんよ。そもそもふたつ以上買うつもりでしたし。たくさん食べましょうね。甘いもの、お好きでしたでしょう?」
「そうですけどおおおお! もうううううう! そうですけど、そうじゃない! 勇者さん、なんにもわかってないじゃないですかああああ!」
「落ち着ていください。きっと糖分が足りないんです。甘いものを食べて解決しましょう」
「全部勇者さんのせいですけど!」
「あのスイーツ、時間制限あるみたいですし、はやく買わなきゃ食べ損ねますよ」
「むうう~……」
「食べたいでしょう?」
「そりゃあ……もちろんです……」
「では、頼みました」
「うっ……、いい笑顔……。あれ?」
「どうしました?」
「勇者さん、あの旗……。書いてあった文字、最初からアレでしたっけ?」
「すみません、まだ文字は読めなくて。読んでいただけますか」
「『時間制限あり! カップル限定スイーツ』……と」
「カッ……プル……? そんなまさか。私はちゃんと聞きましたよ。お友達限定スイーツはいかがですかと」
「でも、旗にはたしかにカップルの文字が……。ハッ、勇者さん、あれ!」
「別の旗が店の裏に……。あんの店主、友達の次はカップルをターゲットに……! 難易度が爆上がりしたじゃないですかこのやろう。これだから姑息な人間の考えることは……」
「姑息な人間て」
「はあ……。ことごとく私を拒否するようですね。もういいです。あんな経営戦略を取る店主からスイーツなど買いたくありません。行きましょう、魔王さん」
「ちょっと待ってください、勇者さん。カップルとはつまり、お互いに好意を持っている者がふたりいればいいわけです」
「それはそうですけど」
「勇者さん!」
「なんですか急に大声出して」
「ぼくのことは好きですか!」
「きらいですけど?」
「即答」
「私、勇者ですし。勇者が魔王に好意的なんてあり得ます?」
「うぐっ。き、希望は抱くものです」
「わざわざカップルのふりをしなくても、さっき言った方法で買ってくればいいんですよ。あれなら友達もカップルも関係ありません。どこからかわらわらと湧いてきたカップルどもが列をなしていますし、はやく買わなきゃですよ」
「言い方」
「一期一会のスイーツです。いちごだけに」
「よほど食べたいんですね。わかりましたよ、列がなくなったら行動に移します」
「客のさばきは速いですね。あと一組です」
「ゆ、勇者さん、残りひとつという看板が!」
「もう待っている客はいません。今です!」
「これひとついただいてきますね代金はここに置きますのでおつりはいりませんお小遣いにしてくださいどうもありがとうございますちゃんと親愛の情を向ける方と一緒に食べるのでカップル限定ギリギリセーフということでさようなら!」
「一ミリも何言っているかわからない」
「ただいま戻りました一旦ここを離れましょうなるべく人のいないところでゆっくり食べるのがよろしいかと!」
「もうふつうに喋っていいですよ」
「ぜえ……はあ……。ラストひとつ、なんとかゲットできました~」
「ありがとうございます、魔王さん。友達限定スイーツはちょっと違うようでしたが、一体どの辺が違うのやら――」
「スイーツを見つめてどうしたんです? そんなにおいしいそうな――」
「…………」
「…………」
「魔王さん、おひとりで食べていいですよ」
「え、いや、あの、せっかく買ったんですし、一緒に食べせんか?」
「魔王さん、おひとりで食べていいですよ」
「こっち向いてください、勇者さん」
「ああ~……。条件を限定して販売するのは店主の優しさということですね……」
「さっき、姑息な人間って言ってませんでした?」
「人間は間違いを犯す生き物です」
「気になるのは見た目だけです。味はおいしいはずですよ」
「それにしたって、魔王さんとふたりきり、こんなものを食べることになるとは……」
「これ、よくできていますね。一体いくつのハートがくっついているのやら。あと、セットのドリンクについているこのストロー……」
「いやですよ、絶対」
「まあまあ、かわいい女の子がふたり、仲良くジュースを飲むだけですから」
「ぜっっっっっっったい、いやだ!」
お読みいただきありがとうございました。
毎度夜に食べ物の話をしてすみません。今後も書きます。
勇者「友達とは一体なんでしょうね」
魔王「ぼくと勇者さんのような!」
勇者「それだけは違うとわかります」
魔王「否定が光の速さぁ……」




