488.会話 ポストカードの話
本日もこんばんは。
海の日なのでそれっぽいようなそれっぽくないようなSSをどうぞ。
「机の前から動かずに何を見ているのですか?」
「…………びっっ……くりさせないでください」
「すみません。立ったまま気絶しているのかと心配になりまして」
「魔王さんのせいで気絶するところでした」
「それは大変です。おや、ポストカードですね。ぼくが買ったやつです」
「ポストカードって、手紙として送れるものですよね。誰かに送るのですか?」
「ぼくが送りたいのは今も昔も勇者さんだけですよ」
「昔っていつの話ですか」
「きみが町に着くたびに『いまどうですか~?』って書こうと思ったんですけどね」
「なにそれこわい」
「そう思われると思い、踏みとどまりました」
「よかったです」
「ですので、こわがられる心配がなくなった今、たくさん送ろうと思いまして」
「今もこわいですよ。過激派具合が」
「またまた~」
「こわいです」
「ガチトーン」
「ですが、文字の読めないひと相手に送るのにちょうどいいと思います」
「もう読み書きができるきみには、手紙とポストカードを送ろうと思います」
「片方にしてください」
「どちらにも『びっぐらぶ』と書きます」
「それこそ片方でいいじゃないですか」
「びっぐらぶ具合を強めるのですよ」
「顔面がうるさいな」
「すみません、ぼくの愛が溢れ出しちゃって」
「ポストカードって他にも種類があるのでしょうか」
「観光地などではよくみられますね」
「訪れた場所の記念に集めるのはいいかもしれません」
「ちなみに、魔王城ポストカードもありますよ」
「それはいらないかな」
「ぼくが撮った写真を使っています」
「どんな感じですか?」
「これです。どうぞ」
「うわ天気わる」
「あ、それは曇天の時に撮ったやつです。間違えました。こちらをどうぞ」
「うわまぶし」
「太陽をドアップで撮ってしまったやつ! すみません、こちらをご覧ください」
「うわなにこれ」
「ピントがうまく合いませんでしたが、快晴の日に撮った魔王城ですよ」
「ぼんやりしていて何もわからない」
「あえてぼかす技法もあると聞きまして!」
「程度というものがあるでしょう」
「『どうもどうも~。さてぼくはどこにいるでしょうか?』という遊びもできるかと」
「珍獣ハンター魔王さん?」
「ちなみにですね、ぼくはここで~す」
「ぼやけていて全くわかりません」
「白い物体が見えませんか?」
「あなたがそれでいいなら何も言いませんけど」
「自撮りもしようと思ったのですが、うまく撮れなかったのでやめました」
「このラインナップよりも下手だったんですか」
「それはもうひどいものでしたよ」
「これらよりもひどい……?」
「そんなことより、勇者さんポストカードを作りませんか?」
「誰が欲しが――あぁ、魔王さんですね、はい」
「勇者さんポストカードを使い、勇者さんへの愛を書き、勇者さんへ送りますね」
「いらないかなぁ」
「そんなこと言わないでくださいよう」
「ところで、写真をポストカードにできるんですよね?」
「そうですよ。何かほしいポストカードがあるのですか?」
「ミソラポストカード」
「誰に送るのですか?」
「送りませんよ。観賞用です」
「それもいいですね。では、失礼して。ぱしゃり」
「一応、訊きますね。なんで私を撮ったんですか」
「もちろん、勇者さんポストカードを作るためですよ」
「データ消そう」
「今回もぼかし技法を使って撮ったのですよ。ご覧になりますか?」
「やっぱりうわなにこれ」
「ぼんやり勇者さんです」
「これなら消さなくてもいいかな」
お読みいただきありがとうございました。
ぼやぼやポストカード。
魔王「はあ、やっぱりぼやけていると困りますねぇ」
勇者「あれ、困ってたんですか?」
魔王「一枚も売れないので」
勇者「それは売っている場所の問題だと思いますよ」