483.会話 テーブルマナーの話
本日もこんばんは。
当作品は好きなように読んで好きなように解釈して好きなように触れればばっちぐーです。
「……なんですか、じっと見て」
「え? えへへぇ、いやぁ、なんでもないですよう」
「隠す気がないですね」
「勇者さん、お箸もスプーンも、フォークもナイフも上手に使えるようになりましたね」
「あなたに教えてもらっ――教えられましたからね」
「なんで言い直したんですか?」
「訊かないでください」
「訊かないでと言われたら! 訊きたくなるのが世の情け!」
「どこかの団みたいな言い回しですね」
「おいしく食べれば、マナーなんて気にしなくていいんですよ?」
「限度というものがあるでしょう。外に出た以上、少しくらいは丁寧にしたいのです」
「気にすることないのに」
「ひとりならまだしも、あなたまで悪く言われかねないのですよ」
「それこそ、気にする必要はありません。だってぼく、魔王ですから」
「たしかに、悪く言われるはずのひとなのに、褒められてばかりですもんね」
「人間が困っていたら助けるのがぼくですよっ」
「魔なるものたちの世界からしたら、マナー違反と言われそうですね」
「魔族が人間を助けることは本来良しとされていません」
「でしょうね」
「そもそも、そんなことをする意味がありませんし」
「ほんとですよね。魔王さんはなんで人間を助けるのですか」
「ぼくがそうしたいと思っているからですよ」
「聖女みたいなセリフですね」
「大切な存在を守りたいと思うのは、全くもって不思議なことではありません」
「そうですかね」
「きみが迷い込んだ動物を道から離して逃がすのと同じことです」
「……見られないようにやったはずなのに」
「何かを大事に想うこと。感情や意思を持つものならば当然の理といえるでしょう」
「魔族もですか」
「魔族は滅べばいいです」
「私怨しかない、この魔王」
「この世界にいらないですよ、あんなゴ――」
「ストップ。それ以上は魔王さんのイメージダウンに繋がりますよ」
「だいじょうぶですよ。ぼく、美少女なので」
「うわ、すてきな笑顔」
「美少女ならば、ある程度のことは許されます。罵倒もご褒美になるそうですし」
「そんな世界はいやです」
「たどたどしくスプーンやフォークを使う姿で世界が救われることもあります」
「簡単な世界だなぁ」
「使い方がわからない道具に目を回す姿に癒され、浄化される者もいます」
「気づいているなら教えてくださいよ。これどうすればいいんですか」
「どうぞ、続けてください」
「教えろって言ってんですよ」
「にこ……」
「優しく微笑むな」
「新しいおもちゃをとりあえず触ってみる赤ちゃんっていますよね」
「ケンカなら買いますよ」
「むやみやたらに口に入れる赤ちゃんも」
「食事中なんですから口に入れて当然です」
「よく噛んでくださいね」
「その前に食べ方がわからないと言っているのですが」
「とりあえず口に入れればいいですよ」
「教育の義務」
「難しい言葉を知っていますねぇ」
「いくつだと思ってるんですか」
「いくつでしょうねぇ」
「楽しそうなのはいいですが、冷めてしまいますよ」
「それは大変です。では、ぼくがあーんをしてあげましょうね」
「だから、食べ方を教えろと言っているのです」
「あとでゆっくりと教えてあげますよ」
「いや、今」
「はい、あーんですよ」
「やめてください」
「こうしないと食べられないでしょう?」
「もっと楽に食べられる方法があるんですよ。教えてくれればいいのです」
「難しいことを言いますね」
「一番簡単だと思いますが」
「教えちゃったら勇者さんがひとりで食事しちゃうじゃないですか」
「つまり、食べさせたいから教えないんですね」
「その通りです。……なんでナイフを持っているのですか?」
お読みいただきありがとうございました。
たどたどしい勇者さんを微笑ましく見守る魔王さん。
魔王「大体のことはそつなくこなしてしまうのですけどねぇ」
勇者「悪かったですね、覚えが悪くて」
魔王「親近感を抱きます」
勇者「やめろ」