482.会話 連絡の話
本日もこんばんは。
居場所を伝えるだけなら爆発でもだいじょうぶです。
「いざという時、すぐに連絡を取れる手段が必要だと思うのです」
「任せてください。魔王さんの言いたいことはつるっとぺりっとお見通しです」
「どこかのマジシャンみたいな言い回しですね」
「そういうわけで、こちらをご用意しました」
「薪と火薬?」
「なんで不思議そうなんですか?」
「え、だって、何をするのかと思いまして」
「何って、もちろん火をつけるんですよ。こんな感じに」
「焚き火ですか?」
「違います。連絡手段ですよ」
「……まさか」
「狼煙です」
「狼煙かぁ」
「なんだか煮え切らない様子ですね。どうしてですか?」
「ぼくはもっと近未来的な手段を想像していたものですから」
「魔王さんからすれば、狼煙だって最新技術でしょう」
「さすがに違いますよ」
「では、何を求めていたのですか?」
「携帯電話とか」
「世界観と話し合いましょうか」
「なに言ってるんですか。前にパソコンが出てきたでしょう」
「あれもほぼアウトですからね」
「メールとか」
「手紙と言い換えれば許可しましょう」
「ゼロとイチで構成された電子の方でお願いします」
「そうですか。だめです」
「ぼくはね、勇者さん。迅速に簡単に便利に連絡したいのですよ」
「大声で叫ぶ」
「狼煙といい勝負ですよ」
「パネルに字を書いて掲げる」
「メールの元祖?」
「テレパシー」
「急にファンタジーですね」
「勇者と魔王にだけ通じるテレパシーが」
「あるんですか⁉」
「ないですけど」
「ないかぁ」
「あったら魔王さんが音速で使っているでしょう」
「そうですね。光速で使っていると思います」
「世界にひとりずつの対なる存在だろうと、特殊能力なんてないのですよ」
「さみしい。ぼくはいつだって脳内で勇者さんにびっぐらぶを叫んでいるのに」
「一度も聞こえたことはありません」
「やっぱりテレパシーはないようですね」
「魔王さんにはありそうなのですが」
「そうですか?」
「その輪っかからビビビ……と」
「テレパシーというよりビームですね」
「何か伝えたい時は頭を絞めつけて知らせてくれるのです」
「西遊記かな」
「魔王さんが起きない時はこれを使ってお仕置きします」
「西遊記ですね」
「ぴかぴか光ることで遠くにメッセージを送ることもできます」
「モールス信号かな」
「ばかばかばかばかばかばか」
「崖の上の勇者さん」
「だいじょうぶですよ。いざという時は真面目に伝えますから」
「頼りにしていますよ」
「無事かもしれないけど解釈によっては無事ではないかもしれませんが平気です、と」
「頼っちゃいけない相手だったのかもしれませんね」
「がつんと信頼してくださいね」
「その自信、どこから湧いてくるんですか」
「そりゃあ、地下とか岩の隙間とか」
「それはたぶん水ですね」
「水は生命に必要不可欠なものです。水を流すことで私の生存を示しますよ」
「都合よく流せるだけの水があるでしょうか」
「水は水でも血で」
「流れを作る量が出ていたら生存の危機を示しているんですよ」
「ピンチや危機やヘルプを一度に表せる便利なものといえるでしょう」
「ぼくの血の気が引くのでやめてください」
「頼りにしていますよ、魔王さん」
お読みいただきありがとうございました。
水は命の場合は水で、命の水の場合は血です。特に意味のない文です。
勇者「魔王さんはその輪っかでも光らせておいてください」
魔王「連絡用ではありませんよ」
勇者「『幸運を祈る』とか」
魔王「祈られたくなさそうなお顔ですね」