479.会話 なりすましの話
本日もこんばんは。
なりすましたところで信じてもらえないおふたりによるSSをどうぞ。
「はあ、困ったことをする人もいるのですねぇ」
「どうしました? 眉間にしわが五十本くらいありますよ」
「ぼくの眉間はそんなに広くありませんよ。人間が魔族になりすまし、同じ人間を襲うという被害が発生しているそうなのです」
「人間は愚かですね。これでもまだ愛しいと言いますか?」
「もちろんです。その愚かさも愛しましょう」
「相変わらず物好きなひと」
「とはいえ、人間が持つ魔族への恐怖心を煽り、同族同士で決別するのは悲しいです」
「魔王さんが魔王になりすまして乱入するのはいかがでしょう」
「ぼく、なりすまさなくても魔王ですよ」
「見た目がだめ」
「すみません、聖女すぎて」
「それか、テキトーな魔族を捕まえて命令してください」
「いやですよう、魔族なんて」
「くだらないことを考える人間にはお灸をすえる必要があるでしょう」
「お尻ぺんぺんですか?」
「その頭ばんばんしますよ」
「叩かないでください~」
「剣でざくざくでもいいでしょう」
「よくないです。一気にケガレベルが上昇します」
「では、さくさくにします」
「加減の話ではないのですよ」
「文句が多いですね。茨でぐるぐるはどうですか」
「その茨に毒がなければ許可します」
「もちろんですよ」
「さすが勇者さん。あーだこーだ言いつつも勇者ですね」
「毒の茨に決まってるじゃないですか」
「自信満々にだめ」
「だって、相手は魔族のふりをした人間なのでしょう?」
「魔族のふりをした人間だから、毒の茨はだめなのですよ」
「たぶん死にませんよ」
「たぶんって言ってる」
「失礼しました。死ぬ可能性はじゅうぶんにあります」
「言い直しありがとうございます。余計にだめですね」
「ただでさえ愚かな人間のくせに、さらに愚かしいやつなんて生かす理由がありません」
「勇者さん、勇者であることを忘れないでください」
「勇者は魔族を倒すんですよね? その魔族になりすまして人間を傷つけるのなら、倒される覚悟があると考えて差し支えないでしょう」
「どうしてもというのなら、ぼくが代わりにやりましょう」
「魔王さんが?」
「魔王必殺・お尻ぺんぺんシーズン4」
「結構長いシーズンなのが嫌だな」
「叩き方にコツがありまして、血行改善の効果も期待できます」
「なんだろう、うれしくない」
「怒ったあとはお菓子とお茶でお話タイムです」
「お説教シーズン2ですか。嫌なシーズンだな」
「何が悪いのかを説き、理解、納得してもらうことが大切です」
「聖女の仕事にそんな感じのものがあったような」
「罪を償う機会を与えるのも必要なことだと思うのです」
「高尚なことで」
「それはそれとして、ぶん殴りたい人間もいますけど」
「拳を握らないでください」
「やる時はやった方がいいです」
「魔王さんってそういうところありますよね」
「ちゃんと気絶程度に収めますから」
「殴ることは殴るんですね」
「悪いことは悪い。変えられない真実です」
「私のことも殴りますか?」
「殴るわけないじゃないですか何言ってんですかどうしたんですか熱でもあるんですか」
「息継ぎ息継ぎ」
「だって勇者さんがわけのわからないことを言うから」
「私も、悪い人間ですよ」
「どこがです?」
「勇者になりすまして人間から謝礼をもらおうとしたことがあります」
「それはいつもの勇者さんといいますか」
「謝礼はもらえませんでしたけど」
「あの時の悪い人はどちらかというと村人の方といいますか」
「お尻ぺんぺんの刑ですか?」
「いえ、ぶん殴ります」
「魔王さんも存外、脳筋ですよね」
お読みいただきありがとうございました。
『穏便に暴力で』がモットーの勇者と魔王。
魔王「勇者さんが関わると思考がうまく働かなくて……」
勇者「脳筋魔王さんが出てきちゃうのですね」
魔王「暴力の方が早いですし」
勇者「そういうところですよ」